「封太さん。……犯人がわかったの?」
『まあ、落ち着きたまえ。時間はたっぷりあるのだから』
封太は芝居がかった口調でそう言った。
『まず凶器だが、おそらくこの宿の中にはもうないだろう』
「えっ?」
茉里香たちは顔を見合わせる。
『おかしいと思ったんだ。そもそも高級宿に、そんな凶器になるようなものが置いてあるだろうか?
陶器なら、ぶつけた瞬間に割れてしまう。金属なら、派手な音が鳴るだろう』
そこで区切って、封太は指を立てる。
『この特殊な状況下で考えられる凶器。──それは氷だ。布を巻き、被害者の脳天に叩きつけたのだ』
るいの目が点になっている。
「氷。そんなことが……」
『凍りついた氷塊は、石と変わらない硬さだ。応援の警察も来れないような雪深い土地で、極端な話、外に出て積もった雪を握り固めればいい』
「じゃ、じゃあ、だれでも犯人になりえたってこと?」
『いいや。……実際は猛吹雪だ。外に出たらそれこそずぶ濡れになる。宿のなかで、ずぶ濡れの人間を見たか?』
「それは、見てないけれど……」
封太は楽しそうに目を細めた。
『今回の事件の肝は、その氷をどうやって処分したか、だ。
もちろん外に捨てにいけば、先述の通り服がずぶ濡れだ。しかし、宿のなかに置けば、床がびしょ濡れになる。ではどうやって氷を消した?』
封太はゆっくりと目を開き、言った。
『答えは温泉。──お湯の中に放り込み、氷を溶かしたのだ』