クローズド・宿(f)


『るいさん、あなたは被害者を間近で確認しただろう。詳細を教えてほしい』

るいはよどみなく答えた。

「死因はおそらく鈍器による頭部外傷。皮膚の損傷は浅く、出血は少なめでした」
『脳内出血か、頭蓋内損傷といったところか』
「……えっと、どういうこと?」

茉里香が小さな声で質問する。

『固くて重いもので思いっきり殴られたことが死因ということだ』
「へ〜……」

殺されたわりに顔がきれいすぎたのはそのためか──そう言いかけて、あわてて飲み込む。
茉里香の知る「暴力」は、もっと派手で、もっと露骨なものだったからだ。

『だが、いまだ凶器が見つかっていないのだな?』
「はい。正直、客室にいくらでも隠せると考えています。ですから応援の警察が来たら、一斉に捜索しようと思います」

封太は茉里香をちらりと見た。
茉里香もきゅっと唇を結んで、小さく首を振る。

警察が来てからでは遅いのだ。
どうしても、警察が来る前に決着をつけたい。

茉里香の意図を汲んで、封太は咳払いした。

『もう少し、現場について教えてくれないか。どんなささいなことでもいい、違和感はなかったか?』

茉里香はそこで、慧からもらったあの写真のフィルムを思い出した。

「封太さん、これ。カメラマンが撮った事件現場の写真」

茉里香がカメラに写真を写しながら、自分も確認する。

「そうそう、モリストッパーZ、イヤホンをしてたんだよね。それで犯人が近づいた足音に気づかなかったのかな」
「あ、それとぉ〜……」

おもむろに、暦が口を開いた。

「床に少し、水が垂れていたわ。まりちゃんが踏んだら危ないと思ったから〜」

するとるいも、はっとして暦を見た。

「そういえば、衣服もところどころ湿っていました。……直前まで、被害者は外にいたのでしょうか?」

写真を真剣に見ていた封太が、突然、くく、と笑った。

『なるほど、なるほど。……見えてきたぞ、このミステリーの脚本が』