客室にもどるなり、茉里香はノートパソコンをすばやく開き、データとログを削除した。
しかし、安心はできない。
データを復旧されたり、自宅を調べられたりしたら、まっ黒だ。
「まさか旅行先で事件に巻き込まれるなんて思わなかった……、はやく、はやく真犯人を見つけないと私たちがやばい……!」
そう嘆いてから、ふと、手を止めた。
暦が茉里香の顔を覗きこむ。
「どうしたの? まりちゃん」
「こういうのが得意で……海嶽会と繋がりのない人、いた!」
茉里香はそう言って、通話ビデオアプリを立ち上げた。
数回の呼び出し音のあとに映し出されたのは……
『なっ、なんだなんだ? ……自室じゃないな、旅先か?』
ひ弱で気弱そうな男、伊久間封太(いくま・ふうた)。
茉里香が知る限り、最悪の生活をしているが、最高の頭脳を持つ男だ。
以前、茉里香の友だちが誘拐されたとき、封太はわずかな情報だけで犯人を捕まえてしまった。
それまでは多少、情報戦に自信のあった茉里香が、あのときは手も足も出なかった。
彼なら警察が来る前に、真犯人を見つけることができるかもしれない。
茉里香は前のめりになって封太に言った。
「封太さん、私たちね、殺人事件に巻き込まれたの」
『さ、殺人事件〜?』
それから茉里香はいまの状況を封太に説明した。
封太はひと通り聞き終えると、げんなりと言った。
『……そもそもそんな、いかにも怪しげな人間たちが、いかにも殺人事件の舞台になりそうな場所に揃うか? 本当に、私をからかっているわけではないんだな?』
「こんな状況でからかうわけないでしょ! お願い、ほんとにピンチなの。理由はわかるよね?」
『ああ、それは、まあな』
封太も、茉里香と海嶽会の関係については知っている。
そして封太も海嶽会と繋がりはないが、無関係ではない。彼は海嶽会に借金があるのだ。
だから、茉里香の頼みを無下(むげ)にはできないのだった。
封太はしばらく黙りこんだ。
やがて顔をあげると、言った。
『……よし、まずは月館るいをこの客室に呼ぶんだ』
突然そんなことを言われて、茉里香が驚いた。
「えっ? どうしてるいさん?」
『彼女は占い師ではない。警察か、刑事だ』
茉里香と暦はぎょっとして顔を見合わせた。
「な、なんで?」
『話を聞く限り、占い師なら使うはずの心理テクニックを、一切使っていない。それに率先して生死を判断し、『現場保存』という言葉まで出てくる。おそらくきみたちか、その炎上系の男を捜査している最中だったはずだ。その途中で事件に巻き込まれたんだろう』
茉里香は声を出せずに、ぱくぱくと口を動かした。
モリストッパーZと慧には気をつけなければと思っていたけれど、まさか本丸はるいだった?
『月館るいに真犯人を示せば、きみたちに余計な捜査の手が回ることはないだろう。だからこれはピンチではない』
画面のなかの封太がにやりと笑う。
あれは、なにかを掴んだときにだけ見せる、封太の得意げな笑み。
『──突破口だ』