クローズド・宿(a)


さすがの茉里香も、すっかりのぼせが冷めた。

──モリストッパーZは眠っているかのような体勢ではあったが、その目は見開かれていた。
どう見ても、死んでいる。

「……まずいな」

小声で茉里香がつぶやいた。

「……偶然?」

暦も、モリストッパーZから視線を外さずに言った。
暦が言わんとしていることは茉里香にもわかった。

一番最初によぎったこと。
それは、自分たちが「海嶽会」の身内だから、なにかの事件に巻き込まれたのではないか、ということだった。

茉里香が次の言葉を言う前に、後ろから声をかけられた。

「……なにかあったの?」

それはるいだった。
茉里香の肩越しに室内を見て、はっとする。

「彼は……」
「……私たち、いまお風呂からあがって……、湯上がり処で休もうと思ったら、彼が……」

るいは一歩近づき、しばらく黙ったままモリストッパーZの顔を見下ろした。
それから、手首に指を当てる。

「……亡くなっているわ。現場保存をしたほうがよさそうね……、警察へ連絡を」

茉里香と暦が内心ぎくりとする。
今回、自分たちは悪いことをしていない。していないが、警察に連絡するのはなかなか勇気がいる。

「私っ!」

暦が突然、声をあげた。

「女将さんたちに知らせてきまぁすっ!」
「私も、スマートフォンを部屋に置いてきちゃったんで……!」

言いながら、茉里香は胸を撫で下ろした。
こんなところで、「デジタルデトックス」に命を救われるとは。