浴場は、ラウンジを通り過ぎたずっと奥にある。
浴場前の右手、明かりが消えて扉も閉まっている部屋の前で、暦が首を傾げた。
「あら? ここ、前に来たときは湯上がり処だったはずなんだけれど……」
茉里香が部屋に掲げられた看板を見てみると、たしかにそこには「湯上がり処」と書いてある。
「清掃中とかなんじゃない? それか、電気が壊れちゃったとか?」
「うーん、そうかしら〜……」
暦はふしぎそうに首を捻っていたが、次の瞬間には忘れたようで、
「温泉、楽しみだわ〜」
とうきうきとしていた。
引き戸を開けた瞬間、もわりと白い湯気が立ちこめた。
他の客の姿は見当たらない。どうやら、この時間の利用者は茉里香と暦だけのようだ。
身体を洗い終え、屋内の湯船に身を沈める。
「……はあ……」
湯に身を沈めた瞬間、思わず息がこぼれた。
肩まで包まれると、外の音が遠くなる。
……が、
「……えっ?」
茉里香は肩まで湯に浸かったまま、身じろぎした。
あたたかさに包まれていたはずなのに、ふと、ひやりとした感触があった気がしたのだ。
「あれ……」
「どうしたの、まりちゃん?」
「いま、なんか、お湯のなかに冷たい部分があったような……」
茉里香が両手でお湯を掻き回す。
ぱしゃり、ぱしゃりと湯のはねる音が響いた。
「気のせい?」
「湯口(ゆぐち)から離れているからかしら〜?」
暦が湯口に近づく。
「ほら、こっちからは熱いお湯が出ているわよ〜」
「あ、ほんとだ」
ふたりは並んで、ぼーっと外の景色を眺めた。
しばらくそうしていて、やがて茉里香がゆっくりと口を開いた。
「……ねえ、こよみちゃん……」
「……そうねえ……」
ふたりの視線の先。
……外の天気は荒れに荒れていた。
猛吹雪だ。
「さすがに露天風呂には行きたくないね……」
「湯けむりなのか雪けむりなのかわからないものねえ……」
ふたりは並んだまま、遠い目をした。