茉里香と暦は、女将の園枝に案内されて客室へ通された。
先ほどはあの騒ぎで内装を味わう余裕もなかったが、客室まで向かう廊下は間接照明で、ほどよい灯りが品を感じさせる。
廊下はロの字に巡っていて、右に進んでも左に進んでも、いずれ同じ場所に戻る構造らしい。
「こちら、お客様のお部屋、『桜』でございます」
扉を開けると、まずは大きな踏込(ふみこみ)。
正面は水回り、左側のふすまの向こうが居間だった。
「ひ、ひえぇ……高っ……高そう……」
居間の広さに、思わず茉里香の声がもれる。
座椅子におそるおそる腰を下ろすと、園枝から館内について簡単な説明を受けた。
「夜のお料理は六時に、こちらにお持ちします。それまでごゆるりとお寛ぎくださいませ」
園枝は丁寧にお辞儀をすると、客室を出ていった。
かちゃりと扉が閉まるのを確認してから、暦が茉里香のとなりにすすすと近づいてきた。
「ねえねえ、さっきのあの……なんだっけえ? モリスリッパZ?」
「モリストッパーZね」
「そうそう、そのモリストッパーZくんって、そんなに有名なのぉ?」
「……動画を見せるから、ノーパソ、立ち上げていい?」
「んー、許しましょう〜」
茉里香は荷物からノートパソコンを取り出した。
検索すると、すぐに動画が出てくる。
茉里香は、その一番上の動画を再生した。
『大賞常連のミステリ作家、御影燈一郎! 実はこの作家、パクってます!』
モリストッパーZが動画の中でそう叫んだ。
「そういえば、さっきもラウンジでそんなことを言ってたよね」
「御影先生のアンチなのねえ〜?」
「うーん……」
茉里香はスマートフォンで詳細を調べる。
「御影先生のトリックが海外作品の盗作だって騒いだらしいの。でも実際は、御影先生のほうが先だったみたい」
「あら、じゃあもう決着がついた話なのねえ」
「それが、その件で自分のほうが炎上したのが悔しかったのか、あの手この手でいまも御影先生を攻撃してるみたい。経験者じゃないと書けない部分があるから先生の正体は犯罪者、とか……。完全なる逆恨みだね」
「まあ、ひどい。まさか、この宿であのふたりが一緒になったのも偶然じゃなかったりして……?」
「モリストッパーZがストーカーってこと? それだとかなりやばいけど……」
茉里香は、ぱたん、とノートパソコンを閉じた。
「……なんか、私たちにとってもあんまりよくない出会いだよね。モリストッパーZもだけど、慧さんもちょっと気がかりだな」
「あら、なんで?」
「だってカメラマンだよ? ……私たち、気をつけないと」
真剣な眼差しの茉里香に、暦がふふっと笑う。
「まあまあ、私たちはいつも通り堂々としていればいいのよお。……別に殺人事件が起きるわけでもないし、ね?」