「……そもそも私たち、どこに向かってるの? ドッキリとかじゃないよね?」
茉里香の問いかけに、暦がけらけらと笑った。
「まりちゃんにドッキリをしかけてどうするのよお。そうねえ、隠れ宿的な旅館よ。一度に泊まれるのは数組限定でね、まりちゃんと一緒に行ってみたかったの。前に番組の企画で言ったときはゆっくりできなかったから……」
「ふーん……、なんていう名前の旅館?」
「それは着いてから教えてあげるわ。だって教えたら、先に調べちゃうでしょ?」
「い、いつもならそうだけど、今回の旅行ではスマートフォンは極力見ないって決めてるから……!」
どこか言い訳じみたように、茉里香は言った。
決めている割には、モバイルバッテリーも充電用のコードも、なんならポケット型WiFiもバッチリ持ってきていたりする。
……まあ、念のため、ね?
そのとき、不意に声をかけられた。
「やっぱり、おふたかたもあの宿に向かっているのね」
茉里香が驚いて声のほうに顔を向けると、同じ車両にいた乗客のひとりの女性が、いつの間にかとなりのボックス席に移動してきていた。
「駅で見かけたときから、すべてわかっていたわ……」
長いウェーブの髪をかき上げる。
年齢は二十代後半くらいだろうか。黒いゴシック調のコート姿は、どこか魔女めいていた。
茉里香は一瞬、暦と目を合わせてから、
「えーと……、あなたは?」
警戒しながら茉里香が尋ねると、女はふん、と笑った。
「わたくしは月館(つきだて)るい。──占い師よ。せっかく宿でご一緒するなら、お近づきになりたくて」
「……なーるほど? そういう事情なら俺も混ぜてよ」
話に割って入ってきたのは、乗客のもうひとりの男性だった。
女……るいよりも、少し年上のように見える。男はポケットに手を突っ込んだまま、茉里香に向かってウィンクしてみせた。
「かわいい声がするなと思って気になっていたんだ。俺は久我慧(くが・けい)、カメラマンだ。宿で撮っている姿を見かけても、つれなくしないでくれよ、……雨車暦さん?」
男……慧はそう言って、暦をまっすぐと見すえたので、茉里香の心臓が跳ね上がった。
せっかくの旅行なのに、早々に暦の素性がバレてしまった。
こわごわと暦に目を向けると、当の本人はいつものゆるい笑みを浮かべたままだった。
「あらぁ、おふたりともごていねいに。雨車暦です〜。こっちは私のめいのまりちゃん。なかよくしてくださいね〜」
茉里香はこめかみに手を当てた。
……そうだった。
暦は別にプライバシーとかプライベートとか、そういったことは一切気にしない人だった。