電車旅(a)


「ああああぁ、こよみちゃんの提案を聞き入れた私がばかだったああぁ〜〜〜……ッ」

田舎の寂れた駅のホーム。
しんしんと降る雪を眺めながら、恨めしそうに茉里香が言った。

二月のとある日。
暦の言う「デジタルデトックス」とは、要するに旅行のことだった。
深く考えもせず、茉里香はそれに乗った。

別に毎日配信しているわけではなかったが、自室にいるとついつい配信について考えてしまうので、茉里香としてもありがたい誘いだった。

茉里香は暦に連れられるまま、新幹線に乗り、そのあと在来線からローカル線に乗り継いだ。
在来線の時点で周囲は雪景色だったが、ローカル線では不安になるくらいにあたり一面がまっ白だった。

寒すぎて、耳が痛い。
駅のホームで茉里香が寒さに首を縮こませていると、

「うふふ、まりちゃん、鼻までまっ赤」

暦が笑顔で手袋と使い捨てカイロを渡してきた。

茉里香は確信する。
──さては相当の長旅だぞ、これは。


暦のことは、正直好きだ。
テレビに出ているだけあって若々しく美人で、歳の離れた姉のような存在でもある。

それ以上に、彼女は心が強い。インターネット上で何を言われても、まるで気にしない。
だからこそ、四十五歳になったいまも変わらずメディアに出続けていられるのだろう。

「あ、電車、来たわよ〜。雪で止まらなくてよかったわねえ」

一時間に一本しか来ないというおそろしい電車に乗りこむ。
ふたりがけのえんじ色のシートのボックス席がいくつか並んでいるが、車両には、茉里香たちのほかに二人しか乗っていなかった。

茉里香と暦はその二人の乗客から距離をとって、お互いが向かい合う形で座った。
やがて、ギイィ、と金属が擦れるような音を立てて、電車がゆっくりと走り出した。

車窓から見える景色は瞬く間に、雪で霞む木々しか見えなくなる。
駅のホームではあんなに寒かったのに、今度は車内がばかみたいに暑い。
雪山で遭難すると、死ぬ前に暑さを感じて服を脱ぎ出してしまうとかいうから、それだろうか。

暦がコートを脱いで、隣に置いた。

「弱暖房車両がないの、いかにもローカルって感じでいいわねえ」

暖房のせいらしかった。よかった。