「ここが萌乃お嬢さんの部屋か」
萌乃の部屋に入った深神は、なかを見回した。
花がらのカーテンに、ふわふわのじゅうたん。
ベッドや窓ぎわには大小さまざまなぬいぐるみが置かれている。
その他には、小さな本棚と白色のキャビネット。
千代の部屋と同じように、この部屋にも絵画は飾られていない。
「私の部屋以上に、手がかりになるようなものはないとは思いますが……」
おずおずとそう言う千代に、深神がたずねる。
「お嬢さんの部屋は、奥様が掃除を?」
「ええ、私がしていますわ。でも、娘はあまり部屋を散らかすことはないので、その点は助かっています」
深神はしみじみと部屋をながめたあと、
おとなたちの後ろから自分の部屋をのぞきこんでいる萌乃に声をかけた。
「かわいい部屋だね」
萌乃は頬を赤く染めて下唇をかんだ。素直に喜ぶことが恥ずかしいらしい。
「お人形が好きなのかい?」
「……うん」
萌乃は部屋の中に入っていくと、
ベッドの上に置かれていたくまのぬいぐるみを手に取り抱きしめた。
「この子は、一番新しいお友だちのクマタロー」
首につけられた赤色のリボンは萌乃がつけたものだろうか。
クマタローは少々間の抜けた笑みを浮かべながらも、無抵抗に抱きしめられている。
どちらにせよ、こんなに愛されているのならクマタローもさぞや幸せなことだろう。
「よし。それではお兄さんが、クマタローと萌乃お嬢さんの写真を撮ってあげよう」
深神はカメラをかまえると、萌乃に向けた。
「1÷3×(4+5)-6÷(7+8-9)は?」
「……えっ」
とつ然出てきた数字に、萌乃がおどろいて固まった。
深神はすぐに、質問を変えた。
「それでは旅の必需品、真ん中に棒を挟むと非常食にもなる食べ物は?」
「……、……『チーズ』?」
萌乃がおそるおそる答えるとフラッシュが光り、
「……まじめにやってください」
深神は千代に怒られた。