つぎの日の朝。
まだ雨雲は残っていたものの、雨はもう止んでいた。
「うーん、午後には晴れるといいね」
がそう言って大きくのびをしたとき、部屋のとびらがたたかれた。
「おい、、、それにフミ。入ってもだいじょうぶか?」
「あ、うん、どうぞ」
部屋のなかに入ってきたのは、アルノだった。
アルノはすでに、郵便屋の家にもどってきていたのだった。
「あのさ、今日の朝はやくに、ルイスさんがうちに来たんだよ」
「えっ、なにかあったの?」
「それが……」
アルノはため息をついた。
「サユが、すがたを消したらしい」
「やっぱり、じっとしていられなかったか……」
が言って、はきょとんとした。
「? だあれ、サユって?」
「きのう、ルイスさんの家で看病されていた旅人の女の子だよ。高い熱が出ていて、安静が必要だったんだけれど……」
「……なあ、。でもオレ、すこしほっとしたんだ」
アルノが言った。
「あいつが元気になったら、きっとオレらの口から父親のことを告げなくちゃいけなかった。あいつにとって、父親のことを知ることがいいことなのか、悪いことなのかはわからないけれど……、家族の死を知らせるのは、こわかったから」
アルノはぎゅっ、とにぎりこぶしを作った。
「……うちにいるロミィが口をきけなくなったのは、自分の両親を馬車の事故で失ったことを知ってしまったからなんだ。
事故のあと、おとなたちはみんなロミィに気をつかって、しばらくのあいだ、ほんとうのことを彼女には伝えなかった。
でも、ひとりでずっと両親の帰りを待ち続けているあいつのことが気の毒で……、つい、オレが両親が死んだことを教えてしまったんだ」
「そんなことが……」
が言った。
「でも、どんなかたちでも、いずれはロミィも知ることになっただろう。かなしいことを伝えるのは勇気のいることで……、アルノのしたことはまちがっていなかったと、ぼくは思うよ」
その言葉を聞いて、アルノはちからなく笑った。
「ありがとな。……でも、ロミィへのうしろめたさが、いまでも消えないんだ。知りたくないことを知らせてしまったオレのことを、あいつがうらんでいるんじゃあないかって……」
「……アルノ、そうでもないみたいだよ?」
がにこ、と笑ってうしろのとびらに向かって手招きした。
アルノがはっとしてそちらを見ると、わずかに開いていたとびらが大きく開いて、そこからロミィがおずおずと出てきた。
ロミィはアルノのそばまで近づくと、ぎゅっとアルノの手をにぎって、笑った。
そんなロミィに、アルノはたずねた。
「ロミィ……、いいのか? オレに怒っていないのか?」
ロミィはにこにこ顔をくずさない。
は、そんなロミィの頬をつんつん、とつついて言った。
「わたし、この家にはじめて来たときに、ふたりとも仲がいいから、兄妹なのかなって思っちゃったぐらいだもん。
……うらんでいる相手に、こんな笑顔は見せないと思うよ?」