すでに日は傾いて、西の空には重たい雲が立ちこめていた。
サユと別れたが、郵便屋たちのいるルイスの家へともどると、まだが帰ってきていなかった。
「……なにかあったんですか?」
郵便屋さんにたずねられて、がどう答えようか迷っているところに、
「あの……」
が、なんだかもじもじとしながら、ルイスの家へともどってきた。
「郵便屋さん、お兄ちゃん。……ちょっと外に来て」
に言われ、ふたりが外に出ると、そこにはあの『フミ』がいた。
「はじめまして。私はフミといいます」
先ほどよりも流暢な言葉づかいで、フミは言った。
そんなフミに、が感心したように言った。
「わっ、フミ、ずいぶんじょうずに話せるようになったね」
「に図書館で本を読ませてもらったので、だいぶボキャブラリーも増加しました。現在は、ある程度の会話は可能になっていると思います」
と郵便屋は、思わず顔を見合わせてしまう。
「……えっと、この人は……?」
「あのね、フミはね、人間じゃないの。この宇宙とは違う宇宙からやって来たんだって」
「……え」
「最初はこの星の言葉がわからなかったんだけれど、いまはだいぶ話せるようになって」
「……その、?」
「しばらく郵便屋さんのおうちでいっしょに暮らせないかなって……」
「それはかまいませんが」
郵便屋が口をはさんだ。
「フミさん、いまの話はほんとうなんですか?」
「ええ、ミスター。私はこの宇宙とはちがう構成の宇宙のなかの、この星とはちがう技術成長をした星からやって来ました。しかし生命体ではありません。カラクリで動いています」
そう言ってフミは、手首を二回転させてみせた。
は気がとおくなりそうだったが、郵便屋はその光景を見ても、まったく動じなかった。
「すごいですね。この星へは観光ですか? それとも侵略をしに?」
「いいえ、どちらもちがいます。私の生まれた宇宙は収縮し、終焉を迎えようとしていました。そこで……多元宇宙における自発的対称性の破れの瞬間に分裂によって創られた世界への移動実験を目的として」
「わ、わかった! それ以上は、頭がパンクする!」
がストップをかけると、フミはすぐにおとなしくなった。
「フミが人じゃないってことは、わかった。でも、そもそも、フミはどうしてといっしょにいるんだ?」
「それが、約束しちゃって……」
「約束? フミと?」
はもじもじしながら、上目づかいに言った。
「それがその……か、神さまと……」