なぞ(c)


が走ってやってきたのは、あの森だった。
険しい山道を越え、あの石のほこらのまえまでやってくると、ふたりは立ち止まった。

「森の神さま!」

が大声でさけんだ。

「いるなら、出てきて!」
「話があるんだ」

も言った。

「あなたと話がしたい。すがたを見せてくれないか」

しかし、反応らしいものはない。
小鳥のさえずりがのどかに聞こえてくるだけだ。

それでも、ふたりはあきらめなかった。

「ぼくたちの友人があなたに願いを叶えてもらって、代わりに悪夢を与えられたという。悪夢を見せているのは、ほんとうにあなたなのか?」

は、ゆめのなかで見た神さまのすがたを思い描いていた。
そうだ。ここに、この森に、たしかにあの神さまはいた。

どんなきもちでこの森にいるんだろう、とはふと思う。
だれも寄りつかない森で、何年も、何十年もひとりで過ごして。

そう考えると、はもう神さまのことを、こわいとは思わなかった。

は一歩、足を前へと踏み出した。

「あなたに会いたいの。……『お願い』」

その瞬間、ざあ、と強い風が吹き、はとっさに目を閉じる。
そのあと、チリン、と鈴のような音がかすかに聞こえた。

やがて風がおさまって、ふたりがおそるおそる目を開けると、

『……、やあ、また会ったね』

ふたりの目のまえに立っていたのは、郵便屋だった。