ゆめ -- 03


次の日の朝。
あとから食卓に入ってきたベルナデットを見て、アルノとロミィがぎょっとした。

「えっ、郵便屋……この人、だれだよ?」

アルノが言って、が顔を見合わせる。

「アルノくん、どうしたの? 昨日の夜、ベルナデットさんといっしょに食事をしたじゃない」
「なに言ってんだ。昨日はオレたち5人だっただろ?」

それはどうやら冗談じょうだんではないらしく、アルノとロミィはベルナデットの存在に、本気でとまどっている。

(……もしかして)

がベルナデットに視線をやると、視線に気がついたベルナデットが、わずかにうなずいた。



朝食後、はふたたび、ベルナデットと街へ出た。
広場のベンチに腰を下ろすと、ベルナデットは、ふ、と短く息をいた。

「……これが私の『悪夢』。私は日にちをまたいで、人の記憶にとどまることができないのだ。
アルノに限らず、ライナスの街の住民たちとはいつも初対面だ。こんな暮らしを続けてもう数十年になる」
「す、数十年?」
「『永遠の悪夢』だからな。私は不老らしい」

さらりとベルナデットが言った。

……にわかには信じがたい話だが、この話がほんとうなら、たしかにとんでもない代償だ。
街の人たちが森を恐れるのもわかる気がする。

「ただ、それとは別に妙なことがあってな。
願いは叶ったはずなのに、私は神さまになにを願ったのかだけ思い出せない。
だからずっと、その答えを探している」
「そんな……」

そこでははっと気がついた。

「……待って。でも昨日、郵便屋さんはベルナデットのことを『知っていた』よね?」
「ああ。彼も『永遠の悪夢』を与えられたひとりだからな」

ベルナデットが言った。

「私がこの街にとどまっているのは、あの郵便屋がいるからだ。
彼だけが私のことを知っていて、私も彼のことを知っている。
……そしてまた、おまえたち兄妹も、私のことを覚えていた」

ベルナデットはそう言って、ひとりで考え込んだ。

「……記憶を失ったことがおまえたちに与えられた『悪夢』なのか、それともまだなにか裏があるのか……」
「ちょ、ちょっと、なんだか衝撃的なことが多すぎて、ぜんぶを受け止められないよ」

はあわてて言った。

「ぼくたちが記憶を失ったことなんて、ベルナデットの『悪夢』に比べたら、ほんとうに些細なことだ。
もし記憶がもどらなくたって、これからまた思い出を作っていけばいい」

それからは、顔をゆがめた。

「……でも、ベルナデット。きみの呪いは……あまりにも、かなしすぎる」
「それでも、いままではあの郵便屋がいてくれたから、なんとかやってこれた」

ベルナデットは静かに言った。

「しかし、彼の『悪夢』は……」
「そ、そうだ。郵便屋さんの『悪夢』って、いったいどんなものなの?」
「彼は、負の感情を失った」

ベルナデットは目を伏せた。

「わかるか? ……大切な人に自分のすべてを忘れられても、かなしむこともできない『悪夢』なんだ」