「志摩子、犯人の位置がわかったぞ。A棟の、二階の教室にいる」
「いい場所を陣取っているわね。正門もB棟も、ある程度は見渡せるということか」
深神と志摩子は、停めてある車のなかで校舎の地図を広げた。
「……大人数の機動隊を動かすのは、危険ね」
「雑木林からの裏道も、いまはふさがっているのか? 穴の空いていたフェンスがあっただろう」
「いまは立派な石の塀よ。まるで監獄ね」
「徹底しているな」
それから深神は、B棟とA棟をつなぐ三階の連絡通路を指さした。
「B棟側から潜入して、この連絡通路を使うしかないな。一階の連絡通路よりは、三階のほうが見つかるリスクが減る。
問題は、犯人が人質をとっているということだ。爆発物といっしょに心中する気でいるなら、目も当てられない」
「私とあなたが教師のふりをして、もぐりこむのは?」
「なかなかいい案だ。どちらにせよ、犯人の判断力がにぶってくる夜までは、待たなければ」
そして深神は、しぶい顔をした。
「しかし、このたびの犯人はすこし妙だ。目的はまったく見えないのに、確固たる意志の強さを感じる。もしかすると……」
そこまで言いかけて、深神ははた、と動きを止めた。
車の窓からそとをながめる。
窓のそとにはあいかわらず、野次馬の群れが殺到している。
深神はゆっくりと、つぶやいた。
「……あの『運転手』は、いつからここにいなかった?」