取引(f)


蒼太たち五人は、卒業アルバムを年度別に調べていった。
そして年代が十年ほどさかのぼったところで、制服が旧制服へと変わった。

このころの写真は、色もすこしばかり退色していて、時代が感じられる。

「……あ、これ、兎沢先生と狐塚先生だ」

新弥がつぶやいて、朔之介がのぞきこむ。

「ああ、あのふたりがここの卒業生ってことは聞いたことがあったが、いまとぜんぜん変わらないなあ」

そのとき、十二年前のアルバムを見ていた緋色が、はたと手を止めた。

「……見つけた」

五人がいっせいに、緋色のめくっていたアルバムをのぞきこむ。
緋色が指で示していたのは、目つきのわるいひとりの男子生徒だった。

写真のしたに書かれた名前は、『姫野ミカミ』。

「これがあの、伝説の姫野ミカミか……」
「たしかに、目で人を殺せそうね」

感慨深くアルバムを見つめる中等部組の横で、蒼太が壁かけ時計に目をやった。

「まだ約束の時間まであるよね? ……すこし緋色と話がしたいから、みんなはここで待ってて」
「えっ?」

緋色が名前を呼ばれて、おどろいたように蒼太を見上げた。
蒼太たちは中等部組からすこし離れると、小声で緋色に話しかけた。

「……ずっと考えていたんだけれど。姫野ミカミって、もしかしてさっき、緋色が電話していた相手じゃないかな?」

小声で蒼太に言われて、緋色は目を丸くした。

「……どうしてそう思ったの?」
「会話をしているとき、『ミカミ』って聞こえたから。それに、緋色のあの反応も気になったし。犯人の居場所はわかったわけだけれど、連絡しなくていいのかい?」

緋色はすこし思いつめたような顔をしたが、やがて覚悟を決めたように顔を上げた。

「写真を見るまでは確信が持てなかったんだけれど、たしかに『姫野ミカミ』は、深神先生のことだった。
ただ、先生がこういうレベルでこの事件に関わってくるとなると……」

それからうーん、と緋色は腕を組んでうなった。

「……深神先生が関わる事件って、いつも限界以上に、こじれるんだよね……」