気配(c)


「爆発物だなんて……そんな」

息をのんだ兎沢に、狐塚が言う。

「だれも立ち入るな、……っていうのが犯人からの言づてだ。 ただ、このさわぎにいちはやく気づいた職員が、すきを見て校内放送で避難指示を出したんだよ。 それでみんなしてあわてて逃げてきたんだが、小雨のすがたが見当たらなかったから、俺はなかにもどったんだ」

それからやれやれと頭をかくと、兎沢にたずねた。

「おまえらが最後だよな? ほかに生徒のすがたも見かけなかったし……」
「お、お兄ちゃんたちが……」

青空が、まっ青な顔でつぶやいた。

「み、ミステリ研究部のみんなと、志鶴君と亀ヶ淵君が、まだ校舎のなかに……!」
「……なんだとぉ!?」

それを聞いた狐塚がふたたび学園内に引き返そうとしたところで、駆けつけた警察官に取り押さえられた。

「落ち着いてください! なかにはまだ、人がいるんですか?」

警察官に問われ、兎沢がむずかしい顔で言った。

「……なかに生徒たちが六人、残っています。中学生が四人、高校生がふたりです」
「わかりました。……そこのきみ! 島田管理官にいまの情報を伝えてきてくれ!」
「了解です、柚野主任!」

柚野と呼ばれた警察官にもうひとりの警察官が敬礼をすると、どこかへと駆けていく。
柚野は狐塚たちをふり返ると、ちから強くほほえんだ。

「だいじょうぶです。必ず全員、無事に助け出しますから」

そのとき、ふいに学園のスピーカーからザザ、とノイズが聞こえてきた。
その場にいた全員がおどろき、校舎のほうへと目をやる。

スピーカーから聞こえてきたのは、男の声だった。

『……放送室まで移動するのに、時間がかかった。先ほどの放送でもうわかったと思うが、この学園内に爆弾をしかけた。 今後、この学園内にだれひとりとして立ち入ることを許さない。 それといま、この場所に残っている人間が学園の敷地外に出ることも許さない』

狐塚がごくりとつばを飲みこみ、兎沢は青空の肩をぎゅっ、と抱いた。
男の声は続く。

『……学園の警備システムは、すでに把握している。万が一約束が守られなかった場合は、こうなる』

直後、ずん、と、地面を震わすような大きな爆発音とともに、校庭に土煙があがった。
野次馬たちは悲鳴をあげたり、逃げまどったりしている。

しばらくすると、ふたたび男の声が聞こえてきた。

『いま、ニワトリ小屋を爆破した。このたびはデモンストレーションとして爆薬に減熱消炎剤を用いたが、 今後爆発させるものは、もっと威力があがるものだと思ってもらっていい』

声はたんたんと続く。興奮しているようすはない。
そして男は放送の最後に、こう言った。

『よく聞け。……俺の名前は、鷲村澄人(わしむら・すみと)だ』