気配(a)


月見坂学園の視聴覚室。

ホラー映画の鑑賞会が終わると、兎沢は電気をつけた。
そして、いままで切っていた校内放送のスピーカーの電源も入れ直した。

「さてと、映画も見終わったことだし、そろそろミステリ研究部の部室に行きましょうか。 ……そのまえに、職員室にカギを返しておかなきゃ。……よっと」

兎沢がなにやら資料のようなものが入った段ボール箱を持ち上げて、よろめいた。
そんな兎沢に、青空があわてて駆け寄った。

「わ、私、手伝いますっ」

そう言って、青空は兎沢の代わりにダンボール箱をかかえる。

「ありがとう、西森さん。それじゃあ、私と西森さんは職員室に寄るから、みんなは先に部室に行っていてね」

兎沢は視聴覚室のカギを閉めると、青空とともに視聴覚室をあとにした。
ふたりのすがたを見送りながら、朔之介がぽつりと言った。

「……西森さんって、ああ見えてけっこうホラーとか、平気なんだな?」
「……まあ、『もっとこわいもの』でも、見たことがあるんじゃあない?」

もこなはそっけなくそう言うと、まだふるえている詩良のからだを、ひじでつついた。

「ちょっと詩良、しっかりしなさいよ」
「あのねえ、あんたたちぜったいおかしい! なんであんなこわいものを見て、みんな平気な顔をしてるわけ!?」

そのとき、蒼太はふと、目を細めた。

「……なにか、へんな感じがしないか?」
「ちょ、ちょっとお、西森先輩、やめてよ!」

詩良がなみだ目で抗議する横で、もこながあごを引いた。

「でも、待って。言われてみれば、たしかにいつもと、なにかちがう……」

そしてもこなは、あることに気がついた。

「……校内が、やけにしずかじゃない?」