取材(d)


次の日の放課後。

ミステリ同好会……あらため、ミステリ研究部員のメンバー五人は、新たに顧問となった兎沢を探しに職員室へと向かった。 蒼太は職員室に入ると、近くにいた数学教師の狐塚(こづか)に声をかけた。

「すみません、兎沢先生はいませんか?」
「……ああん?」

狐塚は壁かけ時計に目をやってから、答えた。

「たしか、さっき視聴覚室のカギを持って行ったぞ。それからもどってきてないな」
「視聴覚室、ですか?」
「あいつ、パソコン部の副顧問をやっているからな。ただ、今日は部活はないはずだが……、そういえば」

それから狐塚はにやりと蒼太に笑いかけた。

「部に昇格、おめでとさん。ミステリ研究部初代部長は、西森兄か?」
「えっ、いや、そういえばまだ部長とかは、決めていなかったんですけれど……」

蒼太がふり返ると、ほかの部員たちがどうぞどうぞ、とこちらに手を向けていた。

……たしかに高校生の自分と緋色以外のメンバーは中学生だし、選択肢はないのかもしれないけれど。
蒼太は深くため息をはいて、肩を落とした。

「……あの伝説の同好会を勝手に部に昇格させたうえに、初代の部長を担(にな)うというのは、僕には荷が重すぎるんですが……」
「いいっていいって。むしろ、いわくつきの同好会時代の歴史をおまえらが払拭してくれるのを期待しているよ」

狐塚が蒼太の肩をぽんぽんとたたくと、小声でつぶやくように言った。

「……さすがに、『あれ』以上の事件は起きないだろ……」

そういえばまえに、狐塚と兎沢もこの月見坂学園出身だと聞いたことがある。
狐塚の言う『あれ』というのがどんな事件かはわからなかったが、……うわさに聞く『姫野ミカミ』が相当やらかしたんだろう、たぶん。