発足(d)


「宮下君はどこから引っ越してきたの?」
「ふだんはどんな音楽を聞く?」
「犬とねこならどっち派?」

休み時間、生徒たちは緋色に次々と質問を浴びせていった。
緋色はというと、それらに対して一度もいやな顔をせずに、にこにこと答えている。

にぎやかなのはいいことだけれど、強い光はかげを作る。
緋色の席のとなりで、蒼太はため息をはきそうになるのを、なんとかこらえていた。

強い光は苦手だ。
強い光をまえにすると、自分のかげが色濃くなるようで、そんな自分のことがいやになってしまうからだ。

(……休み時間が終わるまで、すこし廊下を歩いてくるか)

蒼太が立ち上がり、教室を出ようとしたところで、なぜか緋色がいそいで追いかけてきた。

「西森君! どこに行くの?」
「えっ?」

特に目的のなかった蒼太は、すこし口ごもった。
そもそも彼は、どうして僕のあとを追いかけてきたんだろう?

緋色はまわりを見ながら、苦笑した。

「この学校、すごく広いね。ぼく、すぐに迷っちゃいそう。西森君、今日の昼休み……放課後でもいいけれど、この学校のなかを案内してくれないかな?」
「それはべつに……かまわないけれど」

どうして僕が、という言葉をのみこんだ蒼太に、緋色は笑いかけた。

「ぼくの名前が『緋色』で、西森君は『蒼』太でしょ?
おたがい、名前に色が入っているのもなにかの縁だと思うし、仲よくなれたらいいな、って思って」

緋色はすこし困ったように、上目づかいで蒼太を見た。

「ダメ……かな?」

僕は、緋色を取り囲んでいたクラスメイトの気持ちをじゅうぶんに理解した。

……彼には、どうやら人をひきつける魅力があるようだ。