発足 -- 03


時刻は少しもどり、その日の朝。
月見坂つきみざか学園高等部、2年A組の教室は、朝のホームルームの時間を迎えようとしていた。

学年が変わってから2か月ほどが過ぎ、生徒たちはすっかり新しいクラスになじんでいる。
このクラスの生徒のひとり……高校2年の西森にしもり蒼太そうたは、 そんなクラスメイトたちのことを、いちばん後ろの席からぼんやりと眺めていた。

卒業して数年もしたら、この光景もなつかしく思えてきたりするのだろう。
しかしいまはまだ、その感覚を想像することはむずかしい。

そうやって物思いにふけりながらも、いつもと変わらない1日が始まるはずだった。
……その日、副担任の兎沢とざわ小雨こさめがひとりの生徒を引き連れて、教室に入ってくるまでは。

「とつぜんだけれど、今日からみんなといっしょに勉強することになった子よ」

兎沢はいつも、パンツスタイルに白衣を羽織はおっている。
メガネをかけ、ひとつに束ねた長い髪。
いつも薄い笑みを浮かべている、とらえどころのない女性だ。

彼女の本来の役目は養護教諭で、普段は保健室にこもっている。
その雰囲気は『保健室の先生』というよりも、ミステリアスな研究者に近かった。

そんな兎沢が黒板の前に立たせたのは、明るい色の髪をハーフアップにした、メガネをかけた男子生徒だった。
いわゆる、転校生というやつだ。

見たことのない生徒を前にして、教室の中は一斉にざわめきに包まれる。
兎沢はにこにことしながら、転校生に声をかけた。

「宮下君、簡単に自己紹介をしてもらってもいいかな?」
「はい」

転校生はにこ、と兎沢にほほ笑みを返すと、クラス全体を見渡して言った。

「ぼくの名前は、宮下緋色ひいろといいます。
家庭の事情で月見坂学園に転入してきました。どうぞよろしくお願いします」

快活そうでいやみもなく、中性的な雰囲気だ。
クラスの女子たちはさっそく、ひそひそとなにごとかをうわさしはじめた。

「えっと、じゃあ宮下君は……西森君のとなりの席に座ってくれる?」
「はい、わかりました」

思いがけず指名され、蒼太はびくりと肩をこわばらせた。
緋色はすたすたとこちらへ歩いてくると、椅子に座っていた蒼太の顔をひょい、と覗き込んだ。

「きみが西森君? これからよろしくね」

緋色はそう言って、笑った。