音楽室の幽霊(b)


僕と翠は、紺を小学校に送り届けた後、古山高等学校に向かった。

「 翠ちゃん、おはよー!」

校門近くで、一人の女子生徒が翠に体当たりをしながら抱きついてきた。

「オワル、おはよう」
「あれっ、和也もいたんだ、ふーん。……おはよ」

白々しくそっぽを向きながら挨拶したのは、十了(つなし・おわる)。

お洒落に無頓着で、伸ばしっぱなしのポニーテールはぼさぼさだ。
男物のベンチコートを羽織っているけれど、その出で立ちが逆に、彼女の魅力である奔放さを引き立ててもいた。

彼女は翠のことが大好きで、よく彼女の隣にいる僕のことをライバル視しているのだった。

「……それにハジメも、おはよう」

僕はオワルの後ろを歩いてきた、マスクをしている男子生徒にも声をかけた。
ハジメは僕のことをちらりと見ると、無言でうなずいた。

彼の名前は十一(つなし・はじめ)。
ただでさえ変わった苗字に変わった名前で目立つのに、なんと彼らは双子なのだった。

ハジメの顔はオワルとそっくりなのに、雰囲気は真逆だ。

オワルはいつも元気で、クラスのなかでも人気者。
ハジメは度を超えた無口で、まるでオワルの影であるかのようにひっそりとしていた。

「ねえねえ、ところでふたりとも、もう聞いた? あのうわさ話!」

オワルはいたずらっぽく笑って、僕を上目遣いで見上げた。

「きのうの日曜日、……音楽室に、出たんだって!」
「出たって、なにが?」

僕の問いかけに、オワルは口元に手を当てて、ささやいた。

「出たと言ったら……もちろん、お化けだよ!」