音楽室の幽霊 -- 03


オワルはそれから声のトーンを落として、ひそひそと続けた。

「日曜日は、学校にだれもいないはずでしょ?
それなのに昨日、うちのクラスの砂辺さんが学校の近くを通ったときに、音楽室からピアノの音が聞こえてきたんだって。
しかも、子どもが弾いているような、たどたどしい音だったらしいの!」
「えっと……」

僕は困惑して、慎重にたずねた。

「オワルはそういうの、……つまりオバケとか、心霊現象を信じるタイプなのか?」
「ぜんぜん!」

オワルは笑顔で即答した。

「でも、砂辺さんに頼まれちゃったんだ。
砂辺さんは吹奏楽部なんだけれど、練習のときに音楽室を使うから、オバケの正体を突き止めてほしい、って!」
「……私は」

それまで黙って聞いていた翠が、静かに口を開いた。

「それがほんとうにオバケの仕業でも、いいと思うわ」
「あれれっ、翠ちゃん、らしくないね。どうしたの?」

オワルがじっと、翠を見つめた。

「もしかして、翠ちゃんにはもう、ピアノの音の正体がわかっちゃったとか!?」

翠は目を閉じて、なにも言わない。
彼女がそうやってなにも言わないときは、つまり肯定と同義だった。

オワルはうれしそうに翠に抱きついた。

「すごい! さすが翠ちゃん! 翠ちゃんがそう言うなら、きっとオバケのせいだね!」

オワルが無責任にもそんなことを言いだすので、僕はあわてて彼女にたずねた。

「ちょ、ちょっと、オワル。
でももう、そのオバケの正体を突き止めるって、砂辺さんと約束しちゃったんだろ?」
「うん!」

オワルは、ためらいもなくうなずいた。

「でも、翠ちゃんが言うことは、絶対に正しいの。だからもう、これはオバケのせいなの!」
「うーん……」

僕は考えた。

翠はいまの話を聞いただけで、このオバケ騒動の真相に見当がついたらしい。
それなら、もっと時間をかけさえすれば、僕にもわかるかもしれない。

……それに、真相がわからないのは個人的にもやもやするし。

「……オバケのせいにするにしても、1日だけ、待ってくれないかな」
「あれっ、和也はいつになく乗り気だね! うんうん、じゃあこの件は和也に譲ったって砂辺さんに伝えておくよ!」
「え? それはちょっと……」

そのとき、学校のチャイムが鳴った。

「あっ、早く行かないと! うちのクラス、今日は朝の小テストがあるんだ。翠ちゃん、行こっ!」
「……ええ」

オワルが翠の手を引っ張って、あっというまに僕たちの先へと行ってしまった。
オワルと翠、そして僕とハジメはそれぞれクラスが違う。彼女たちはA組で、僕とハジメはB組なのだった。

僕は振り返ると、僕と同じように校庭に取り残されたハジメに声をかけた。

「ハジメ」
「……?」

名前を呼ばれて、ハジメはふしぎそうに首をかしげた。
そんな彼に、僕は続けた。

「もしもほんとうにオバケがいるなら、ハジメはその姿を『写真』に撮ってみたいんじゃない?」

『写真』という単語を聞いたとたん、ハジメの目がはっと輝いた。

十家は、写真館を営んでいる。
そういったものにまったく興味がないオワルのぶんまで、ハジメは無む類るいのカメラ好きで、カメラや写真の話にだけは食いついてくるのだった。

「……協力、してくれる?」

ハジメがこくこくこく、と勢いよくうなずいた。
……ひとまず、これで少しは心強くなった。