「ふたりとも、ほんとうにありがとうっ」
ニワトリを小屋にもどしたあと。
日高さんは、そう言ってぺこりと頭を下げた。
「ニワトリがあのままそとに出たままだったら、それこそ夜にヘビや野犬におそわれていたかも。山吹くんの推理力、すごかったね!」
「まさか、なぞ解きで私が遅れをとるとは」
そう言うミカミは、なぜかくやしがるどころか、満足そうな表情をしていた。
「さすが彩人だ。私も負けてはいられないな」
「よく言うよ、ミカミが僕に負けていることなんて、ひとつもないだろう? 試験の成績だって、毎度トップじゃあないか」
僕が肩を下げると、ミカミは謙遜(けんそん)するようすもなく言った。
「あんなものは、ただのデータのアウトプットだ。そんなことは機械にもできることで、なんの意味もない。
彩人は、私が持っていないものを持っている。だから私のあこがれなんだ」
「また、そんな冗談を言って……」
僕はため息をつく。
僕が持っていないものをすべて持っているのは、ミカミのほうだ。
その逆なんて、なにも思いつかない。
「あ、でも、山吹くんにあこがれるって、わかる気がするなあ」
思いがけず、日高さんがにこにことそう言った。
僕がおどろいて日高さんを見ると、日高さんはあわてたようすで手をふった。
「あ、えとっ、ほら、ミカミくんって、なんだか第一印象はちょっとこわいっていうか……っ、近寄りがたい雰囲気があるでしょ? でも、そばに山吹くんがいると、なんだか空気がまるくなる感じで……、クラスのみんなもそれで、ミカミくんに話しかけやすくなったんじゃないかなって……」
日高さんはうつむきながら、さらに早口で言った。
「それにっ、山吹くんがピアノを弾くと、なんだかそこだけ別世界になったみたいで、いつまでも見ていられるっていうか……、……あ!」
それから日高さんは、はっと目を見開いた。
「ピアノで思い出した! 私、これからピアノの縫針(ぬいばり)先生のおうちに行く予定だったの!」
「え? ……縫針先生のところへ?」
僕とミカミは顔を見合わせた。