にわとり -- 04


月見坂学園のとなりには、雑木林が広がっている。
その雑木林の少しひらけた場所に、近所に住む老人がちいさな畑を作っていた。

「その畑で、たしか今年はキャベツを作っていたんだ。
でも、その人は自分が食べるぶんしか収穫しなかったみたいで、まだ畑にキャベツが残っているんだよね」
「キャベツはにわとりの大好物なの。もしもにわとりがそれを見つけたら、きっと食べると思う……!」

顔をぱっと輝かせた日高さんとは対照的に、ミカミの表情は依然いぜん、むずかしいままだった。

「……雑木林があることは私も知っている。しかし、こちらと向こうのあいだには、フェンスがあるだろう。
たしか土地が低い雑木林のほうにフェンスが建てられていて、動物が入り込めるようなすきまもなかったはずだ。
一度正門から出て向こう側へ行くには距離があるし、その知恵がにわとりにあるかどうか……」
「そこなんだよ。……実は、雑木林にはもっと簡単に行けるんだ」

僕の言葉に、ミカミと日高さんが顔を見合わせた。
僕はその様子がおもしろくて、思わず吹き出す。

「たいしたことじゃないよ。……ただ、そのフェンスには穴が空いている場所があるってだけさ」

この学園にかよっていれば、1年もしないうちにそれとなく知ることになる事実のひとつだ。
人がひとり通れるほどの穴が、草葉の影に隠れるようにして空いているのだ。

その穴は遅刻した生徒がこっそりと学校に侵入したり、逆に不良生徒が抜け出したりすることに使われている、ある意味学園のみんなが共有している秘密の抜け穴だった。

「ふたりはこの春からこの学園にやってきたから、まだ知らなかったんだね。
いい機会だし、僕が案内するよ。知っていると、なにかと便利だし」

そして僕は、ふたりをその抜け穴まで連れていった。



「ほんとうだ。こんなところに、穴が空いていたなんて……」

フェンスの穴を前にして、日高さんが感心したようにつぶやいた。
そんな日高さんの肩を、僕はつついた。

「ねえ、日高さん。あそこ」

僕が指差したフェンスの向こう側には、ちいさなキャベツ畑があった。
収穫されずに放置されたキャベツの葉は開ききっており、黄色の花を咲かせている。

そしてそのキャベツの葉を、2羽のにわとりがついばんでいた。

「よかった……! ……おーい、にわとりくんたち!」

日高さんがにわとりたちに声をかけた。
にわとりたちは日高さんの姿を確認すると、大急ぎでフェンスの穴をくぐり、日高さんの元へと駆け寄ってきた。

「なあんだ。あなたたち、私のことをきらっているわけじゃなかったのね」

足元にやってきたにわとりを見て、日高さんは笑った。

「でも、人の畑のお野菜を食べちゃダメ。さ、おうちに帰ろ?」

2羽のにわとりは、日高さんの言葉に返事をするかのように、「コココッ」とちいさく鳴いた。