「なんかいろいろ動き回って疲れたな。公園で休もうぜ」
ナツの提案で、ふたりは自動販売機で飲み物を買って、近くの公園で休むことにした。
たまをの中央公園は真ん中に大きな沼があり、その沼を緑が囲っている、大きな公園だ。
この沼の周りをジョギングコースにしている市民も少なくはない。
ふたりは近くにあった木かげのベンチに腰をおろした。
セミの声は相変わらずの大音量で、耳が痛くなるくらいだった。
「今日は……宿題どころじゃなくなっちゃって、ごめん」
いたるがそう言ってうつむいた。
ナツはおどろいて、いたるの顔を見た。
「オレは宿題よりもずっとおもしろかったよ! 警察署の中に入ったのだって初めてだし」
ナツは両足をぶらぶらさせた。
「オレのお父さんが、はじめてのことを体験するチャンスが目のまえにあったら、どんどんチャレンジしろって。もちろん悪いこと以外で、だけど」
いたるはナツの父親を思い浮かべた。
ナツの父親は、ナツにそっくりだ。よく笑うし、やさしそうな人だ。
右腕がないけれど、それは昔、事故で失ってしまったらしい。
「ナツくんのお父さんって、お仕事はひみつなんだよね」
「うん。ほかの人には言っちゃいけないんだって。オレもよくは知らない」
ナツは缶ジュースに口をつけ、空をあおいだ。
「でも、お父さんには友だちが多くて、みんないい人なんだ。お父さんの仕事は、そういう人たちと働くような最高な仕事なんだと思う。オレ、お父さんみたいになりたい」
「いまもそっくりだと思うけれど」
「そうかな?」
へへ、とナツが笑ったとき、いたるのスマートウォッチが鳴り出した。
ナツは思わず缶ジュースを自分のとなりに置く。
「また知らない番号か?」
「……ううん、非通知だ」
いたるは自分のスマートフォンを取り出すと、ナツにも聞こえるようにスピーカーモードに切り替えた。
「もしもし?」
すると、スピーカーから相手の声が聞こえてきた。
『これから私が言うことを黙って聞け。……イクマフウタを誘拐した』