脅迫電話(b)


ふたりは顔を見合わせた。

「誘拐って……」
『黙って聞けと言っただろう』

若い男の声だ。
しかし男の威圧的な態度に対して、いたるはひるまなかった。

「待って、まちがい電話かもしれないから。……あなたはどこに電話をかけているの?」
『イクマフウタの電話番号から転送される、名前も知らないきみに』

男が答えた。

『イクマフウタには親族も友人もいないから、きみに身代金を要求しようと思ってね。……そうだな、額は100万円だ』
「ひゃく……」

いたるは息をのんだ。

「無理だよ。ぼくはまだ子どもだもの」
『関係ない。あしたの午前10時、たまをの町4丁目のKストアの隣にあるマンションのまえまで来い。いいか、絶対に大人や警察には知らせるな、そうしたらイクマフウタの命はないと思え。私はきみたちを監視しているぞ』

男は一方的にそう言うと、電話を切ってしまった。

「……いまの話、ほんとうか? 手のこんだイタズラじゃ……」

ナツが小声で言って、いたるがスマートフォンに目を落としたまま言った。

「この男の人、きみ『たち』って言ってた。……どこからか見てるんだよ、ナツくんとぼくのこと」

ナツはぞっとして、こそりと辺りを見回した。

見通しのいい公園で、歩く人、休む人、いろんな人がいる。
このなかの誰かがいまの電話の主なのだろうか? ……わからない。

「警察……、は、ダメって言われたよな」

ナツは先ほどまで話していた警察官、笑奈の話をいたるとしたかったが、どこからか見られているかもしれない以上、不用意なことは言い出せなかった。
代わりに、ナツはいたるに言った。

「とりあえずさ、明日まで時間があるし、なにかできないか考えてみようぜ。あと、絶対にひとりにはならないほうがいいと思う」

すると、いたるが暗い表情をした。

「ぼく、今日、両親がいなくて、家にひとりだ……」
「うちに泊まりに来るか?」
「ううん、ぼくの家には猫がいるから。夜に家を空けることは……」
「じゃ、オレが泊まりに行く!」

勢いよく立ち上がったナツを、いたるは見上げた。

「いいの?」
「うんっ! 帰りに家に寄って、必要なものをとってくる!」

缶ジュースは、いつの間にか飲み終わっていた。
ふたりはゴミ箱に缶ジュースを捨てると、公園をあとにした。