廊下をはさむようにして、両側に部屋が並んでいる。
使われていない部屋は扉が開け放たれていて、中が見えた。
当然だが、そのどの部屋も飾り気などはまるでない、小さな会議室のようだった。
ナツといたるのふたりは、そのうちのひと部屋に通された。
部屋のなかに置かれていたのは、学校でも見たことのあるような茶色の天板の長机に、無機質なパイプ椅子が6脚。
ふたりは、長机を挟んで警察官と向かい合わせになるようなかたちで座らされた。
警察官は、改まった風に名刺を出した。
「私はこういう者です」
ナツが受け取った名刺をしげしげと眺める。
名刺には「警務課総合相談員」という肩書き、「福山笑奈(ふくやま・えな)」という名前と、警察署の住所、電話番号が書いてあった。
「あなたたちのお名前と、住所はこちらの紙に書いてね」
そう言われて、いたるは不安げに警察官……笑奈の顔色をうかがった。
「あの、お父さんとお母さんに連絡をしたりは……」
「しないわよ、だいじょうぶ。あなたたちは悪いことはしてないもんね」
その言葉に、いたるは安心して名前と住所を書きこむ。
「それと、イクマさんの電話番号と、あなたの電話番号も教えてくれる?」
「はい」
いたるはナツがメモした紙と、自分のスマートフォンの設定画面を見せる。
笑奈はメモを受け取ると、胸ポケットから自分のスマートフォンを取り出した。
「ありがとう。それじゃあさっそく、この……イクマさんの電話番号にかけてみるわね」
笑奈はメモを見ながら、「イクマさん」の電話番号にかけた。
直後に、いたるのスマートフォンの呼び出し音が鳴る。
笑奈は不可解だと言わんばかりに、眉間にしわを寄せた。
「話の通りね……」
「ここに来るまえに、携帯ショップにも寄ったんです。でも、どうしようもないから警察へ行けって……」
「……うーん」
笑奈は腕組みをした。
「今回のそもそもの問題点は、その携帯会社ね」
「えっ?」
ナツが驚いて顔をあげた。
「イクマさんじゃなく?」
「イクマさんがどういう意図をもってこういうことをしているのかはわからないけれどね。こういうのは個人情報云々のまえに、不正なサービスの提供に当たるの。望まない電話番号からの転送が勝手に行われているんだから。もしかするとほかのトラブルの可能性もあるけれど、それならなおさら携帯会社が責任を負うべきなのよ」
「それじゃ、もう一回携帯ショップに行ったほうがいいの?」
「できるなら、次は大人もいっしょにね。それでも門前払いされるなら、このイクマさんの家に直接、警察を向かわせることもできる。幸いにも、住んでいる場所と本名がわかっているから」
そちらは「取り立て屋」からの情報だ。
「取り立て屋」と「警察」が手を組んでいるようでナツはふしぎな気持ちになったが、いたるの表情は少し晴れていった。
「そうすれば、まちがい電話もなくせるんですね」
「そうね。ちゃんと記録に残しておくから、なにかあったらその名刺に書かれている電話番号に電話してね」
笑奈がやさしくほほえんだ。