「オレがちょっと風邪を引いているあいだにそんなことが……?」
日曜日の午後。
いたるは風邪が治った白河ナツと、成宮真夏を誘って百貨店のフードコートに来ていた。
ナツにはもちろん、真夏にも事件の顛末を報告しておきたかったからだった。
「っていうか、柴木先生がオレになりすましてた? 気持ち悪……」
「まさかあの偽物のナツくんが柴木先生だったなんて。……やっぱりインターネットって怖いんだ」
ひたすらドン引きするナツに、困り顔の真夏。
そんな真夏に、いたるは言った。
「真夏くんのことも、フータ……封太さんが驚いていたよ。めいぷるは女性だと思っていた、って」
「あはは、あのアバターだとそう思っちゃうよね。僕もゲームの中では別人のふりをしてるんだ、小学生ってバレると煽られたりするから」
「オレはそんなに器用に演じ分けられる自信ないな……」
ナツはそう言って、人差し指でトントンと机を叩いた。
「オレは当分、こっちのオレだけでいいや」
「僕もナツくんはこっちだけでいい」
真夏が苦笑する。
それから飲み物に口をつけて、ほう、と息を吐いた。
「それにしても、封太さんってすごい人なんだ……、憧れちゃうなぁ」
目をうっとりとさせている真夏の様子に、いたるとナツはこっそり顔を見合わせた。
一年前の事件のことは、真夏には話していない。
つまり、封太がヤミ金に借金がある自称フリーターの引きこもりだということは、真夏はまだ知らない。
この感じだと、それを知っても真夏の憧れは覆らなそうではあるが、なんとなく、いたるとナツはその事実をまだ伏せたままにすることにした。
「まあでも、イクマさん……、あ、封太さんのほうがいいのか。……封太さんの、推理力? がすごいのは、ガチだな」
「そうだよね。結果的に、誘拐犯を捕まえた」
「探偵さんみたいだね」
真夏がニコニコと言う。
どうやら真夏の中で、封太の株は上がる一方のようだ。
「封太さんがいるなら、この町でどんな事件が起きても安心だねっ」
「いや、もう事件は起きないでほしいかな……」
ナツはハハハ、と乾いた笑みを浮かべたのだった。