待ち合わせ(a)


明くる日の午前。
封太の部屋に、いたる、一水、そしてあの小さな丸いサングラスをかけた男、敷龍臣(しき・りゅうしん)が集まっていた。

龍臣も一水と同じように封太のベッドに腰をかけ、いたるは座布団の上に座っている。
小学生ひとりだけを床の上に座らせるのもなんだか居心地が悪く、封太も渋々、パソコンの椅子から降りて座布団の上に座った。

ただでさえ広くない部屋なのに、封太を含めて大人の男が3人もいると、異様な圧迫感がある。
封太はいやそうに顔をしかめた。

「私の部屋を集合場所にしないでほしいのだが……」
「うちの事務所のほうがよかったですか?」
「いやっ、よく考えてみれば我が家も悪くないな。さて作戦会議だ」

封太は早口でそう言い、コホンと咳払いをした。

「まずは、朝陽さんが監禁されている場所の目星はついたんだったな?」
「うん」

軽い調子で龍臣が答えた。
笑ってはいるが、胡散臭い笑顔だった。

「うる……なんだっけ、ウルリカ? が挙げた候補の廃ホテルを、夜中のうちに全部見て回ってね。 そのうちのひとつの扉に新しめの南京錠がついていた。多分そこだね」

封太が頷く。

「よし。龍臣さんはその廃ホテルの近くで待機していてくれ。私たちが犯人と接触したら、龍臣さんにメッセージを送る。その時点ですぐに朝陽さんを救出してほしい」
「オーケー」
「犯人との待ち合わせは午後、池袋の喫茶店だ。いたるにはこれを渡しておく」

封太はいたるに小さなイヤホンを手渡した。

「マイク付きのワイヤレスイヤホンだ。基本は髪で隠して、ばれても音楽を聴いていたと誤魔化せば問題ない」

いたるは手渡されたイヤホンをぎゅっと握った。

「わかりました」
「あとは……喫茶店ではあるが、犯人と接触したあとは飲み物や食べ物の類は決して口にはしないように」

封太が真剣な顔で言った。

「朝陽さんのときは、おそらく睡眠薬を盛られた。今回も同じ手口を使うかもしれない」
「えっと……、犯人が来たら、すぐ捕まえるわけじゃないんですか?」
「朝陽さんを確実に保護するまでは、いたるに時間を稼いで欲しいんだ」

いたるはごくりと唾を飲み込む。
責任重大だ。でも朝陽さんを助けるために、ぼくもがんばらなきゃ。

それからいたるは、ちらりと龍臣に目をやった。

「……ところで……龍臣? ……さんって、何者なんですか?」

ピアノのレッスンの帰りのときも、龍臣のことは遠目に見かけただけだった。
そのときは、一水の「友だち」だと紹介されたけれど……

「……うーん?」

龍臣が一水の顔を見て、

「一水の友だち? ってことで……?」
「はい、友だちです」
「いたるは友だちになるなよ」

一水と封太にそう押し通されて、いたるもなんとなく察した。
……やっぱりこの人、たぶん反社か半グレだ。