放課後。
いたるがスマートフォンの電源を入れると、封太からメッセージが入っていた。
それに目を通していたいたるの横で、真夏はどこかワクワクといたるに尋ねた。
「もしかして、フータさんから?」
「あ、うん。そうなんだけれど……」
メッセージの内容は、学校が終わったら封太のマンションに来て欲しいとのことだった。
真夏に事情を話したいし、封太に会わせてやりたい気持ちもあったが、もしその場に一水もいたとして、反社会的組織に所属している彼と真夏とを知り合わせるのは、どうにもよくない気がする。
(一水さん、悪い人じゃないんだけれど……)
考え込んだいたるに、真夏は気遣うように言った。
「あの、僕のことは気にしないで。……いたるくんは、なにか厄介なことに巻き込まれているんだね?」
そう言われると、ますます申し訳なくなってしまう。
いたるはぱん、と両手を顔の前で合わせた。
「真夏くん、ごめんね。でも全部終わったらちゃんと話すし、フータにも話を伝えておくよ」
「ほんと!?」
真夏が目を輝かせた。
「うんっ、楽しみにしてる。あと、いたるくんのことも応援してるからね!」
バスの停留所に着くと、真夏は昨日よりも大きく、いたるに手を振ったのだった。
「おとり……ですか?」
封太の部屋で話を聞き終えたいたるは、不安そうな声で聞き返した。
いたるの予想に反して一水はおらず、いま部屋にいるのは封太といたるだけだ。
封太は頭にできた真新しいこぶをさすっている。
いたるをおとりにすると言い出したときに、一水に殴られたらしい。
「おとり役なんて、ぼくにできるかな」
「待ち合わせ場所は人目のある喫茶店にするし、私と一水さんも別席で見張る。いたるには指一本触れさせないさ」
封太が言った。
封太が自信家なのはいつものことだが、こういうときにはなんだか頼もしく見えてくるのだから不思議だ。
「でも、なぜぼくが?」
「相手がナツになりすましているということは、相手はきみのことも知っている可能性が高い。
そして逆に、きみが犯人のことをすでに知っている可能性も同じくらいある。待ち合わせ場所にきみがいたら、相手はきみが『フータ』だったと察するだろう。
相手はそのまま帰るわけにはいかない、入店した時点で、顔見知りのきみに正体を晒してしまうわけだから」
顔見知りが犯人、と改めて聞くと怖い。
今朝まではその犯人はナツのなりすましの犯人だったけれど、まさかそれが誘拐犯に化けるなんて。
「きみは犯人と話をしているだけでいい。すべて私と一水さんに任せてくれ」
封太がにっと笑う。
その笑顔を見て、いたるも勇気を奮い立たせる。
──そうだ。封太と一水のコンビがそばにいるのは、なによりも心強い。
いたるは頷いた。
「わかりました。朝陽さんを絶対に助けましょう」
「その意気だ」
封太がいたるの頭をぽんぽんと撫でた。