打ち合わせ(e)


一水は、怪訝そうに封太を見て言った。

「いまの会話だけで、朝陽さんの居場所が本当にわかったんですか?」
「池袋近郊の廃ホテルの地下だ。その条件に当てはまる物件を探す必要はあるが」
「なぜ、廃ホテルだと?」

封太は椅子を回転させて、一水に向き直った。
そして人差し指を立てたまま目を閉じる。

「窓がないのでおそらく地下。部屋は広く、聞いた感じでは個人宅ではない。
ランタンの明かりのみということは、電気も止まっている可能性が高い。
つまり、現在は使われていないなんらかの施設の地下室。
廃デパートなら、マネキンや大きな台車などが残っていてもよさそうだが、それはなかった。
代わりにサービスワゴン、小さなタイヤが並ぶ場所。これらから考えられる答えは、ホテルの備品を修理するための地下室というわけだ」
「……なるほど。廃ホテルといえば、ある程度は絞れそうですね。池袋近郊というのは?」
「単純に、朝陽さんと犯人が会ったのが池袋だったからだ。ナツを知っているような様子から考えても、おそらく池袋は犯人の生活圏内だろう。それに眠った朝陽さんを抱き抱(かか)えて移動するとして、タクシーや公共機関を使うと目立つし映像に残るが、徒歩なら人混みに紛れ込むことができる。池袋ではだれも他人に注意など払わない」

そして自動車は駐車料金が高い、と封太は苦々しそうにつけ足した。
一水は顎を引いて、しばらく封太を見つめていたが、やがてふう、と短く息を吐いた。

「……わかりました。しかし、そこまでわかっていて、なぜ『明日』まで待つんですか? 場所を特定でき次第、朝陽さんを助けにいってもいいのでは?」
「犯人と朝陽さんが一緒にいるところに鉢合わせすれば、人質にされる可能性がある。 いないときだと、犯人を取り逃(のが)す。その場合、犯人の顔を知っている朝陽さんは今後、命を狙われる羽目になる」

一水はまだなにか言いたげに口を開きかけたが、そのまま苦笑して肩をすくめた。

「イクマさん、なぜ引きこもりなんてやっているんですか?」
「? どういう意味だ」

封太は心底不思議そうな顔で、一水を見た。
一水は首を横に振って、立ち上がった。

「とりあえず、その可能性のありそうな廃ホテルを明日までに探しておきます」
「ああ。最悪、場所がわからなかったとしても犯人は捕まえられるから、朝陽さんはいずれ見つけ出せる。気負う必要はないよ」

らしくなく、気遣うような口ぶりだったので、一水は再び笑った。

「俺がウルリカに頼むことを見越して、彼女の心配をしているんですね」
「まあ、そうだ。ウルリカには悪いことをした。……物件探しを手伝いたいのは山々だが、私も犯人を全力で釣らなければ」
「釣るのは結構ですが、実際に会ったらあなた、成人男性じゃないですか。向こうが名乗り出てこないのでは?」
「その点はぬかりない」

封太はにやりと笑った。

「いたるにおとりになってもらう」