学校に着いたいたるは、真っ先にナツのクラスへ向かったが、ナツはまだ登校していなかった。
昨日の今日だし、今日は休みかもしれない。
いたるはナツの机の上に、真夏から預かっていた教科書を置いた。
1時間目の休み時間にもう一度ナツのクラスを覗いて、学校に来ていないようだったら机の中にしまおう。
(真夏くんにも、まだナツくんに教科書を返せていないことを伝えないと……)
そう考えていたいたるのもとへ、ちょうど真夏がやってきた。
どうやら真夏も、ナツの様子を見に来たようだった。
机の上の教科書を見て、真夏は小首を傾げた。
「あれっ、いたるくん、昨日はナツくんに会えなかったの?」
「うん、風邪でピアノを休んだみたいで」
「そうだったんだ……、ごめんね、手間をかけさせちゃって」
申し訳なさそうに言う真夏に、いたるは首を横に振って笑った。
「気にしないで。2組に戻ろう」
ふたりは連れ立って、廊下へ出た。
そして2組の敷居を跨(また)ぐ、そのほんの少し前に、いたるが何気なく尋ねた。
「真夏くん、フレイヤ・オンラインって知ってる?」
真夏が足を止め、ひどく驚いたようにいたるを見た。
目をしばたたかせ、いたるの顔を凝視する。
「いたるくん、フレイヤに興味があるの?」
「えっ、そういうわけじゃないけれど……」
いたるは困惑した。
「ナツ」と聞いて、真「夏」を思い出した。
……ただそれだけのことで真夏に質問をしてしまったけれど、真夏のこの反応は、一体どういうことなんだろう。
真夏は真夏で、いたるの真意を測りかねているようだったが、やがて「あっ」と声をあげた。
そして周囲には聞こえないように、小さな声でぽつりと尋ねた。
「……もしかして、きみが『ナツ』?」