封太は弾かれたように顔を上げて、ウルリカの放送に目をやった。
普段は声しか聞いていないが、そうか、見た目はこんなだったか。
封太がウルリカの配信をよく聞いているのは、この子の情報収集の方法が手堅く、ニュースをまとめる能力にも長けているからだ。
普段のウルリカなら、反社会的組織の事情になど首を突っ込んだりはしないはずだ。
封太は違和感を覚え、音量を上げた。
『どこまで言っていいのかな、この話題はデリケートだからなぁ〜。
うーんと、まぁそう、関東。池袋の近く、かな。 えへ』
封太はスマートフォンを目で探しながら、ゲームのチャットに素早く文字を打ち込んだ。
「ナツくん、急だが用事ができた。めいぷるさん、私の代わりにナツくんのレベル上げを手伝ってくれないか」
『いいですよ〜』
『あ、待って待って。オレもやっぱり寝る! おやすみー』
ナツはそう言い残すと、すぐにログアウトしてしまった。
なんだ、さっきまで狩りに行く気満々だったというのに。
しかし、いまはそんなことに構っている場合ではない。
封太はめいぷるに声をかけた。
「とにかく、私は席を外すから」
『わかりました。私はしばらくここにいますから、もし帰ってきたら教えてください』
チャットを終えた封太は、手に取ったスマートフォンで一水に電話をかけた。
『はい』
呼び出し音のあと、一水はすぐに出た。
いつもと変わらない調子の声だった。
あまりにも普段通りの一水に封太は少しだけ躊躇したが、結局たずねた。
「もしかして、誘拐事件があった?」
『……少し待ってください、場所を変えます』
しばらくのあいだ、ガサゴソと衣擦れやらの音がしたあと、一水の声がもどってきた。
『イクマさん、どこで知りました? いたるさんから?』
「なぜいたるが? 待て、なにがどうなっているんだ?」
『いたるさんではなかったら、だれから聞いたんです』
「動画の生配信だ。池袋近郊の反社会的組織の人間の子どもが誘拐されたと」
『配信者の名前を』
「ウルリカ。ウルリカ・ニュースチャンネル」
一水の小さなため息が聞こえた。
『特定します。それと、明日イクマさんの家に行きます。詳しい話はそのときに』
「わかった。わかったが……、いたると関係があるということは、ナツも?」
『まあ、そうですね。同じ程度の関係性です。……そちらもなにかありましたか?』
「ああ。さすがにこの誘拐事件とは関係ないと思うが……」
『とりあえず、明日。朝の9時には』
そうして電話が切れた。
意味がわからない。
が、なりすましと、誘拐事件。
どちらもナツといたるが関わっているとしたら。
封太が長年培(つちか)ってきた、引きこもりの第6感が告げている。
──このふたつの事件、どこかで繋がりそうだ、と。