「そうなのか」
封太の心臓は早鐘を撞(つ)くようだった。
「私にも、友だちにナツという子がいるんだ」
『へー、そうなんだ。フータさんって、何年生?』
気にも留めないこの反応。間違いない。
この「ナツ」は「フータ」を知らないのだ。
しかし、口調も誕生日も本物のナツと同じ。
つまりこいつは白河ナツになりすまし、あどけない演技をしている可能性が高い。
ナツの知り合いだろうか?
だとしたら、悪質だ。ナツの個人情報をオンライン上にばらまいているのだから。
「私は小学6年生だよ。池袋の近くに住んでいる」
封太が嘘をつくと、ナツが反応した。
『オレとおんなじだ! 家もすげー近い!』
ということは、ナツの家まで知っているということか。
一体何者なんだ、こいつ?
そのとき、めいぷるがログインしてきた。
『ふたりとも、こんばんはです』
『めいぷるさん、こんばんは〜!』
ナツが挨拶を返した。
『聞いて聞いてめいぷるさん! フータ、オレと同い年だった〜! 住んでるところも近く!』
やや間があって、めいぷるからフータへ、個別チャットが来た。
『どういうことですか?』
めいぷるには、自分がフリーターだと前もって伝えてある。
めいぷるは、なぜフータがナツに、自分の年齢を小学生だと偽ったのかが疑問だったのだろう。
「すまない、彼のことを探るためにうそをついた。どうにも彼は、実在するナツの偽物、なりすましのように思う」
『そういうことですか。なるほど』
そこで個別チャットは終わり、全体チャットに切り替わる。
『ナツくん、フータくん、あんまり個人情報をゲームとか、インターネットに書いたらダメですよ。だれが見ているかわかりませんから』
『はーい』
ナツの返事は軽い。
昨日、めいぷるはこのナツのことを「インターネットに対する警戒心が低い」と言っていた。
しかし封太には、ナツがあえて白河ナツの個人情報を晒しているように見える。
とはいえ、なにが目的で?
封太が考えている横で、音楽が鳴った。
もうひとつのモニターのほうで、ウルリカの動画配信が始まったのだった。
『みんなー、今日は遅れちゃってごめんなさーい。ウルリカだよ〜。
今日のウルリカニュースのトップは、昨日の誘拐事件の話の続き!
あの誘拐事件をメディアが報道できない裏事情をキャッチ! 実は誘拐された子は、……暴力団の子どもなんだって!』