封太は腕組みをしながらパソコンの画面を睨んでいた。
起動しているのは例の「フレイヤ・オンライン」だ。
ゲームのなかのフータは、ギルドの集会所で座ったままだった。
昨日の夜、「ナツ」とは軽く挨拶を交わしただけだ。
ナツはそのあとすぐにゲームをログアウトしてしまったので、どんな人間かはまだわからない。
ただ、ナツがログアウトしたあと、めいぷるが言っていたことが気がかりだった。
『ナツくん、野良で出会ったんですけれど、小学生らしいんです。それで、インターネットに対する警戒心があんまりなくて……、見ていて危なっかしいんですよ』
野良というのは、どのギルドにも所属していない、ソロプレイヤーのことだ。
ナツのおぼつかない動きを見ていて心配になって、めいぷるは自分のギルドに引き入れたらしい。
『フータさんは、ネットリテラシーがしっかりしているじゃないですか。だから、もし私がいないときはナツくんを気にかけてあげてほしいなって……』
昨日のめいぷるとの会話は、そんな内容だった。
めいぷるに言われなくても、そうせざるを得ない。
なぜなら封太には、「ナツ」と同じ名前で、同じ小学生の男子が知り合いにいるからだ。
「まさか、あのナツではないよな? あの子はインターネットやオンライン系には疎いはずだし……」
ひとりごちながら、封太は考える。
それに彼には受験が控えているし、ゲームをしているような時間もないだろう。
いつもだったら21時半ごろにログインしてくるめいぷるが、今日はいない。
代わりに22時を過ぎた頃、ログインしてきたのはナツだった。
『あ、フータさん、こんばんはー! いっしょに狩り、いきます?』
ナツのステータス画面を見ると、レベルがまだ低い。
ゲームを始めて数日と言ったところだろうか。
フータもまだ始めて1週間ほどだが、依頼主からブーストアイテムと、ハイスペックの武器を与えられている。
その上、昼夜構わずプレイを続けているので、かなりレベルが上がっている。
めいぷるがフータのことをこのゲームの上級者だと勘違いしているのは、これらのせいだった。
「このレベル差なら回復役がいなくてもなんとかなりそうだな。私がキャリーしよう」
『キャリーってなんですか?』
「ええと……アシストするって意味だよ。ナツくんのレベル上げを手伝うよ」
『やった! 助かります!』
「では、準備をするから待っていてくれ」
「はーい」
素直に従うナツ。
封太は準備に時間がかかっているふりをしながら、前もって用意していた質問をした。
「そういえばナツくんは、なぜ名前がナツなんだ? もしかして、夏生まれとか?」
すると少し時間を空けて、答えが返ってきた。
どうやらチャットを打つのに手間取っているらしい。
『そう、オレの本名! オレ、7月26日生まれだから』
告げられた誕生日は、白河ナツと同じだった。
予想していた最悪の展開に、封太はぞっとした。
──こいつは白河ナツじゃない。