たまのを小学校、6年2組の教室。
担任の柴木桂吾(しばき・けいご)がクラス全体を見回した。
「最後にもうひとつ。最近、学校の近くで不審者を見かけたという情報がありました。
みなさん、帰り道はくれぐれも気をつけて。知らない人に声をかけられても、ついていってはいけません。
……それでは、帰りのホームルームを終わります。みなさん、またあした。さようなら」
「さよーーなら!」
児童たちは揃(そろ)って元気よく挨拶をした。
はじけるように教室を飛び出していく児童もいれば、友だちとのおしゃべりを始める児童もいる。
犬嶋周(いぬじま・いたる)は、のそのそと帰りの支度をしていた。
今日は特に荷物が多い。授業で使う教科書やタブレットのほかに、習いごとであるピアノのための楽譜を3冊持ってきているからだった。
「あ、いたるくん!」
そう声がして振り返ると、同じクラスの成宮真夏(なるみや・まなつ)が駆け寄ってきた。
いたるも線が細いほうだが、真夏もいたるに負けず劣らず、華奢(きゃしゃ)だ。
真夏という名前に反して、秋や冬のほうが似合いそうな、静かでおとなしい印象を与える男子児童だった。
いたるは通学用の鞄のバックルを締めながら言った。
「どうしたの? 真夏くん」
「今日、ナツくんに会う用事、ある? 音楽の教科書を借りていたんだけれど、いまナツくんのクラスに行ったらもういなくて……」
ナツとは、白河ナツのことだ。
いたると仲のいい男子児童だが、今年はクラスが分かれてしまったのだった。
ナツと、真夏。
このふたりもまた、名前に「夏」が入っている者同士ということで、仲がよかった。
「ぼくのピアノのレッスンがナツくんの次の時間だから、たぶんそのときに。教科書、渡しておくよ」
「よかった、ありがとう!」
真夏がニコニコしながら教科書を差し出した。
「ねえ、いたるくん。途中までいっしょに帰ろうよ」
「バス停までになっちゃうけれど……」
いたるが言った。
バスの停留所は小学校を出てすぐのところだ。いっしょに帰るというほどの距離でもなかったが、
「うんっ、バス停までいっしょに行こ」
真夏は再び、にっこりと笑ったのだった。