7月7日(月) 8時25分 -- 06


僕たちはだれもいないコンビニから、少しだけ食べ物を拝借した。
そして僕の部屋のちいさな白いテーブルに、それらを並べた。

僕はその中から、包装されたパンを手に取った。

「このメロンパンはこのあいだ、リニューアルしたばかりなんだ。食べるのははじめてだけど」

アルバイト先で発注したことがあるから、この手のことには詳しい。
僕は袋を開けると、中から取り出したメロンパンを半分に割って、みずきに渡した。
受け取ったみずきは、ふわりとした感触におどろいた様子だった。

「わあ、ふわふわですね」
「バターの量を増やしたらしいよ」

そして早速メロンパンを口に含んだみずきは、

「……おいしくてカロリーが高いなんて、女の子の敵です……」

むむむ、とうなりながらも、その半分のメロンパンをゆっくりと平らげた。

このメロンパンが、僕たちのこの日はじめての食事だった。
しかし疲れ過ぎていたのか、かえって食欲がわかず、僕もみずきもこれ以上なにかを口にすることはできなかった。

短い食事の時間を終えて、僕はノートパソコンを立ち上げた。
ネット回線はつながっていたものの、ニュースサイトの記事もすべて過去のもので、リアルタイムに動いているものはなかった。

「全部……止まっていますね」

横から覗き込んでいたみずきがそう言い、僕はうなずく。

「海外のサイトも含めて、今日の日付になってから更新されているものがなにもない。 ……ネットでの情報収集も、期待薄みたいだ」

それから会話が途切れて、つかのまの沈黙が訪れた。
すると、みずきがとつぜん、顔を覆って泣き始めた。

「……ごめんなさい。なんだか私、混乱しているみたい。急に泣いたりして、へんですよね」

ちいさな肩が震えている。
僕はみずきの背中をそっとなでた。

「へんじゃないさ。見ただろ? みずきとはじめて会ったときの僕なんて、取り乱していたよ」
「取り乱さないほうが、おかしい状況ですから。
……それに私は、蒼太さんを見つけることができて、とてもうれしかったんです」

みずきはそう言って涙をぬぐい、ほほ笑んだ。
それからふと、部屋の隅に目をやった。

「……蒼太さんは、楽器を弾くんですか?」

みずきの視線の先には、壁に立てかけてあったチェロケースがあった。
ほんとうは知られたくなかったのだが、僕はしかたがなく、うなずいた。

「まあ、一応は専攻しているからね」
「あの楽器は……チェロですよね? 私、蒼太さんの演奏を聞いてみたいです……!」
「あはは、勘弁してくれよ」

僕は頭をかきながら、みずきから目をそらした。

「僕の演奏なんて聞いても、おもしろいものじゃないよ」

僕はそう言いながら、ハルカのことを思い出していた。

優秀なハルカとは違い、僕はむなしいくらいに、自分が平凡な人間だということを知っている。
人前で演奏して、がっかりされるのはいやだった。

「……そんなことより、シャワーでも浴びてきたらどうかな」

なにも考えずにそう言ったあと、はっとして両手を振った。

「あ、いや、変な意味じゃないよ。ただ女の子だし、ほら、寝るにしても汗とかかいたままじゃあ、いやかなと思って……いや、寝るっていうのは純粋な意味でだからね」

しどろもどろな僕。
ほんとうに他意はなかったのに、余計あやしくなってしまった。
なんとなくあとに引けなくなった僕は、早口で続けた。

「僕の洋服を貸してあげるよ。サイズがおおきいかもしれないけれど、着られないこともないだろ。
えーとタオル、そうだ、タオルは何枚いるかな、ええと……」

ぎくしゃくしながらキャビネットからタオルを2枚といちばんちいさいシャツ、 それからゴムひものジャージの半ズボンを取り出して、一方的にみずきに差し出した。

ああ、きらわれたらどうしよう?
無性に不安になった僕だったが、

「ありがとうございます、お言葉に甘えちゃいます」

みずきはほほ笑みながら、衣服とタオルを受け取ってくれた。
それからみずきは浴室の扉の向こうへと消えて、しばらくしてからシャワーの音がかすかに聞こえてきた。

その音を聞きながら僕はほっと息をいて、ベッドの上に横になる。

長い1日だった。
もしもこのだれもいない世界が夢だったとしても、ここで眠ったら夢を見るのだろうか?

シャワーの音が遠のいていく。
僕の意識は深く沈んでいった。