振り返ると、そこには見知らぬ男の人……おそらくこの屋敷の当主、米坂さんが立っていた。
米坂さんは、一歩下がって立っていた使用人さんに向かって、どなりつけた。
「ヨハン! いったい、おまえはいままでなにをしていたんだ!」
「え? わたくしは、坊ちゃまがお呼びになった時計屋さまをお迎えして……はて、この子どもたちについては、わたくしも存じあげませんが」
「『存じあげませんが』じゃあないだろう! この屋敷のセキュリティはどうなっているんだ!?
……あと、人前で坊ちゃまって言うな!」
ふたりのやりとりを前にしながら、ぼくは急に不安になった。
このままでは、『秘密』を知ってしまったぼくたちの身も、危ないかもしれない。
でも。
……目を閉じて、ひと呼吸。
この先の応答と展開を、すべて予測する。
……大丈夫。
ぼくたちには、まだ切り札がある。
ぼくはただ、『謎』を解く入り口を、指し示すだけでいい。
ぼくはゆっくりと、目を開いた。
時間にすればほんの数秒だったのだろう、目の前では、いまだに米坂さんが使用人さんを怒っていた。
「第一、私は時計屋なんて呼んだ覚えはないぞ!」
「……時計屋さんを呼んだのは、くるみさんだよね?」
ぼくは言った。
「使用人さんへの電話は、おそらく音声変換器かなにかを使って、米坂さんになりすましてかけたんだ。
そこまで回りくどいことをしなければいけなかったのは、くるみさんが、米坂さんのほんとうの娘じゃなかったから。
正体を偽って、ぼくたちといっしょに『サバト』の絵画を探す……つまり、今回の『怪盗』は、くるみさんだったんだ」
「あら、私はまだなにも盗んでいないのに」
そう言ったくるみさんは、おもしろそうに笑っている。
気にせず、ぼくは続けた。
「そして、ぼくたちはこの部屋を見つけてしまった。
ここにあるものは、どれも盗品ばかりだ。……どうやら米坂さんも、かなりの大物だったようですね」
米坂さんは、いぶかしげに眉をひそめた。
「……私のことはさておき、だ。
きみ、女の子ひとりに責任を負わせるなんて、感心しないな。
それならきみたちふたりは、いったいなんだと……あっ!」
そのとき米坂さんは、白河くんの正体に気がついたようだった。
米坂さんはがくり、と床に膝をつきながら、青ざめた顔で言った。
「し、白河家の坊ちゃん……!?」
「米坂さん、もうわかったよなぁ?
オレたちにはこの絵画を探すまっとうな理由があったんだよ。
だってこの絵画は、オレの家から盗まれたものなんだからな」
白河くんが、絵画の前で手を広げてみせた。
並んでみると、その絵画に描かれている女性と、白河くんがよく似ているということがわかる。
まるで芸術品が完成したみたいだ、と思いながらも、ぼくは言った。
「指輪のところに、Shirakawa Kahoと書いてありました」
「これは間違いなく、オレの母親の肖像画だ」
ぼくの言葉を、白河くんが引き継いだ。