米坂邸 -- 08


どうやら扉の向こうは、階段になっていたらしかった。
ぼくは階段から転がり落ちて、尻もちをついた。

「あいたたた……」

そして転がり落ちた先も、まっくらだった。
暗闇の中で周りを探っていたぼくの真下から、うめき声が聞こえた。

「ま、牧志、早くどいてくれ……」

一瞬どきりとしたけれど、声の正体は白河くんだった。
白河くんもぼくが落ちるときに巻き込まれて、ぼくのクッションになっていたらしい。

「あ……ごめん、白河くん」

そう言って立ち上がったとき、ぼんやりと灯りがついた。
薄暗い灯りの正体は天井から垂れた吊るし電球で、どうやらくるみさんがスイッチを入れたらしかった。

やがて視界の中に浮かび上がったのは、長方形に切り出した石が積み重ねられた壁で囲まれた部屋だった。
部屋の中には、ひんやりとした冷気が漂っている。
ワインセラーにしてはずいぶんと広く、ぱっと見ただけでは教会のようにも見えた。

しかし、部屋の中に置かれていたのはワインでも、もちろん十字架でもなかった。
そこには、……見たことのないようなおおきな宝石や彫刻が、まるで展示品のようにきれいに並べてあるのだった。

階段を降りてきた時計屋さんが、並んだ美術品を見てぎょっとした。

「うわっ、なんだ、この部屋? ……この宝石なんて、雑誌かなにかで見たことがあるぞ」
「これは……『ヴィーナスの首飾り』。前に国立博物館から盗まれたものだわ」

時計屋さんといっしょにやってきたくるみさんも、おおきな宝石をじっと見つめている。

そんな中、白河くんは壁の中央に飾られていたおおきな絵画の前に立っていた。
白河くんのそばに寄り、それを目の当たりにしたぼくも、思わず息をのむ。

……それは透きとおるように美しい色彩で描かれた、女性の油絵だった。
女性はやわらかな笑みをたずさえている。

絵画からは光があふれ、自ら輝いているみたいだ。
ぼくの全身が感動で震える。

……これが『サバト』の絵画。
白河くんがひとめぼれしたという、伝説の絵描き……。

「き、きみたちはいったいなんなんだ!?」

そのとき、後ろで悲鳴にも似た男の人の声がした。