ホームルーム後 -- 02


実は、ぼくが住んでいるマンションのとなりの部屋には、自称『探偵』の女性が出入りしている。
住んでいる、とはっきり言えない理由は、年中ねんじゅう、部屋を留守にしているからだ。

しかしながら、たまにふらっと帰ってきては、ぼくに土産みやげを置いていったり(探偵は世界各国を飛び回るものだ、と彼女は言った)、どうでもよさそうなおつかいばかりを頼んでいったりする。

よく言えば自由奔放ほんぽう、悪く言えば傍若ぼうじゃく無人ぶじんな人だった。

「でも、その間違い相手のおとなりさんは、いま留守なんだろう?」

白河くんの言葉に、ぼくはうなずく。
『難解な謎』とやらを解くために、またどこかの国へしばらく出かけるという話を、先週末に本人から聞いていたのだった。

「だから、やっぱり警察に……」

ぼくがそう言うと、白河くんはやれやれ、と言って肩をすくめてみせた。

「おいおい、文面を思い出せよ。米坂から盗まれようとしているのは、『サバト』の絵画だぞ!」

『サバト』とは、いま世間をにぎわせている、正体不明の画家の愛称だ。
白河くんはぼくに顔を近づけながら、人差し指を立てた。

「いいか? 『サバト』の絵はな、もともとはぜーんぶ、白河の所有物なの!
それなのにこうやってやすやすと人の手に渡っていくなんて、納得いかねーんだよ!」

……実は、『サバト』はかつて、白河家の専属絵描きだったことがあるらしい。
まだ無名だったころの『サバト』の絵にひとめぼれをした白河くんが、親に頼んで、白河家の屋敷に住まわせていたと聞いている。

ぼくはおずおずと、白河くんに言った。

「……でも、『サバト』さんが白河くんの家から離れたあとに描いたものだったら、それはもう白河家のものではないんじゃあ……」
「予告状には『米坂邸に隠された』って書かれていた。正規ルートで『サバト』の絵画を手に入れてりゃ、わざわざ隠す必要もねーだろ?
……オレはどうも、米坂さんのほうもワケありだと感じるね」

言われてみれば、あの文面はたしかに妙だ。
そもそもどうしてこの犯人は、探偵にわざわざ宣言してから盗み出そうとしているのか。
やはりその筋の職業の人は、そういったスリルを求めているのだろうか?

……まあ、探偵があんなだし、へんな犯人に目をつけられるのも宿命なのかもしれない。

白河くんが言った。

「実は、前にオレの家から『サバト』の絵が盗まれたことがあって、その絵がまだ見つかっていないんだ。
この犯人を追えば、なにか手がかりが見つかるかもしれないだろ?」
「……もしかして、白河くん……」

ぼくが言いかけると、白河くんがにやりと笑った。
そして自分の鞄からなにかの紙を取り出すと、ぴらりとぼくの目の前に垂らした。

「ここで、なんとも偶然なことに……オレはいま、米坂さんが新しく開いた画廊の招待状を持っているんだ。
……とりあえず、ちょっと様子だけでも見に行ってみようぜ?」