僕はおどろいて、男の子に聞き返した。
「研ぐのではなく、壊すんですか? ……あなたのおなまえは?」
「ぼくは、ツグト!」
元気よく答えるツグトくんの動きに合わせて、刃先も揺れる。
僕はゆっくりとその銀色の刃を指でつまむと、刃先を僕の顔からそらした。
それから膝を折って、ツグトくんの目線に合わせた。
「ツグトくん、ですね。ツグトくんはどうして、この包丁を壊してほしいんですか?」
「だって、えっとね……」
ツグトくんは、困った顔をしながら言った。
「この包丁で、『グミねえ』、指を切っちゃったんだよ。
グミねえはすぐ治るって言ってたけれど、また指を切ったら、いやだから……」
「『グミねえ』さんは、ツグトくんのおねえさんなんですね?
でも、僕は刃物を研いだり、売ったりすることが仕事なので、壊すことはできないんですよ」
すると、横で話を聞いていたコザトさんが言った。
「ツグトくんのおねえちゃんは、お料理をするんだよね?」
「う、うん……」
とまどいながらツグトくんがうなずくと、コザトさんがやさしく語りかけた。
「それなら、包丁がなくなると困っちゃうと思うなあ。
それに、ツグトくんは知っているかな? 包丁はね、切れ味がいいほうが、傷口がはやくふさがるんだよ」
「そうなの?」
ツグトくんがふしぎそうな顔で、コザトさんを見上げた。
コザトさんは、にっこりと笑った。
「切れ味がわるいと、傷口がでこぼこしちゃうでしょ。だから切ったときに痛いし、治るのもおそくなっちゃうの。
これからもお料理で包丁を使うなら、つぎにケガをしてもすぐ治るように、刃物屋さんに研いでもらったほうがいいんじゃないかな?」
ツグトくんは、ぱっと表情を明るくすると、大きくうなずいた。
「うん! ぼく、包丁を研いでもらう!」