気がかりな放課後 -- 01


飛鳥と別れたあと、誠は保健室へと立ち寄った。
保健室には、書類の整理をしている養護教諭の兎沢とざわがいた。

兎沢は、長い髪を後ろでひとつにくくり、パンツスタイルに白衣を羽織はおっている。
メガネをかけていて、その顔にはいつも薄い笑みを浮かべている、とらえどころのない女性だった。

誠は、教師陣の中ではこの兎沢がいちばん柔軟な思考を持っている、と睨んでここにやってきたのだった。

薬品のにおいがする保健室で、兎沢は誠にたずねた。

「それで、聞きたいことってなにかな?」
「先生におたずねしたいのは、幽霊についてです」
「え? 幽霊?」

兎沢がおどろいたように、何度かまばたきをした。
誠はうなずく。

「はい。いままでこの学校で、幽霊のうわさが立ったことってありましたか?」

誠が知りたかったのは、飛鳥が言っていた『先輩幽霊』の話だった。
飛鳥が学校の外へ出て行けないなら、先輩幽霊と出会ったのも学校内ということになる。 自分よりも長くこの学校にいる兎沢なら、なにか知っているかもしれない、と思ったのだった。

兎沢はうーん、としばらく考え込んだ。

「……この学校では、あんまりその手の話を聞いたことはないな。 それ以外の事件だったら、まあ……いろいろあったけれど、一応解決はしているし……」

兎沢はぼそぼそとひとりごとのように言ったあと、ふと顔を上げた。

「ただ、20年くらい前に、この近くで小学校低学年の子どもが失踪する事件があったよ。 私がたまたまその失踪した子と同い年だったから、覚えているってだけだけれど、 当時は神隠しだ、オバケにさらわれたんだって騒がれたりしてたかな」
「小学校低学年、ですか」

その子どもと、先輩幽霊とはなにか関係があるのだろうか。
とにかく、くわしいことは明日、飛鳥に聞いてみるしかない。

「お話、ありがとうございました。それでは、僕はそろそろ失礼します」
「あ、もういいの? ま、いっか。くれぐれも甘いものを食べ過ぎないようにね」
「……? はい」

誠がふしぎそうな顔をしつつも、保健室から出て行った。
書類の整理にもどった兎沢は、しばらくしてからはたと手を止め、

「……しまった。つい、『あの人』と話をしているような錯覚をしちゃった」

とちいさく舌を出したのだった。