リーン、ゴーン。
六限目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
誠は部屋の壁にかかっている時計を見上げた。
「……もうこんな時間か。越智さんはこれからどうするの?」
「ほんとうなら家に帰りたいところだが……、さっき試してみたところ、学校の敷地のそとには出ることができなかった。
校舎の壁なんかは、すり抜けることができるんだが」
誠はふうむ、とうなった。
「……土地に縛られているのかな。じゃあ、今夜は僕が学校に残ろうか?
そのすがたになってはじめての夜なら、ひとりで過ごすのも心細いと思うし」
しかし、飛鳥はふるふると首を横にふった。
「そこまで赤月君に迷惑をかけられない。
それに、これからはしばらくこういう暮らしをしていくことになるだろうし、夜の学校にも興味がある。
あとそうだ、先輩幽霊を知っているからだいじょうぶだ!」
誠は動きを止めて、飛鳥を見た。
「先輩幽霊って、さっきも言っていたね。昼間よりも夜のほうが、幽霊が多かったりするのかな」
「どうだろう。でも、なんだかわくわくする」
「うーん、だいじょうぶかなあ……」
まだ心配そうな誠を見て、飛鳥はふふ、と笑った。
「赤月君は案外、心配性なんだな。
……今日、教室で赤月君の手をにぎった理由は、生きているあいだに赤月君と話をしてみたかった、と思ったからだ。
まえの学校で学年一の学力だったという赤月君が転校してきたときから、ずっと気になっていたから。
でも、死んでからでも願いは叶うものなんだな。そして想像していたよりもずっと、赤月君は十倍も百倍もいい人だった」
そして飛鳥は、屈託(くったく)のない笑顔で言った。
「赤月君。今日はありがとう」
裏のない純粋なその笑顔に、誠は少し意表をつかれた。
しかしすぐに、
「どういたしまして」
と、気恥ずかしそうにほほえんだ。