少し落ち着いてから辺りを観察してみると、まず、空が明るいことに飛鳥は気がついた。
グラウンドのほうからは、生徒たちの声が聞こえている。
「私が窓から落ちたのは、夕方だった。……少なくとも、一晩は経過しているようだな」
それから軽く地面を蹴るような動作をすると、飛鳥の体はふわりと浮いた。
こうして浮いていると、まるで抵抗のない水の中にいるようだった。
飛鳥はふわふわと、声が聞こえてきたグラウンドへと移動した。
グラウンドでは、生徒たちが体育の授業を受けていた。
飛鳥の目の前を何人もの生徒が走っていくが、だれもこちらに気づく様子がない。
「……だれにも、私の姿が見えないのか……」
飛鳥はだんだん、かなしくなってきた。
中学生になってからというもの、飛鳥は同級生に無視されることが何度かあった。
しかし、無視されるのと存在をまったく気づかれないのとでは、似ているようでだいぶ違うようだ、と飛鳥は思った。
時計を見てみると、時刻は14時だった。
この時間は、まだ5限目が始まったばかりだ。
「……私、もしかして成仏に失敗したのかな。
このままだと、どうなってしまうんだろう。……ほかに幽霊仲間でも、見つかればいいんだが」
「呼んだっ!?」
その声は、とつぜん聞こえた。
そして声と同時に、飛鳥はぽーん、とだれかに背中を『叩かれた』。
「だ、だれだ!?」
飛鳥がおどろいて振り返ると、そこにはちいさな少女がいた。
まだ小学校低学年くらいの外見で、肩まで伸びた髪の一房だけを三つ編みにしている。
服装は鮮やかな赤い着物で、裾にはふしぎな黒の文様が入っていた。
少女の足は、地面についていない。
飛鳥と同じように、ふわふわと宙に浮いていた。
飛鳥はぽかんと少女のことを見つめたが、そのあと、おそるおそる口を開いた。
「あ、は、花子さん? ……トイレの」
「ちがうよ!」
少女はぷくーっ、とほおをふくらませて怒った。
てっきり都市伝説でよく聞く『トイレの花子さん』かとも思ったが、
たしかに花子さんは着物ではなく、つりスカートを履いていたような気もする。……第一、ここはトイレでもないし。
気を取り直して、飛鳥はたずねた。
「……では、おまえの名前は?」
すると少女はかわいらしく、にっこりと笑った。
「あたしは、マリアっ! オバケだよー」