吸血鬼(b)


「え? ああ、……なるほど、あなたが『怪異』」

しばらく考えて、三嶽は思いついたようにたずねた。

「……ん? もしかしてあの事件って、あなたが犯人なんですか? あの、六人の連続傷害事件の……」
「ちっ、ちがいます!」

ヘンルィクは心外だというように首をふった。

「私は、人を襲ったりなんかは……その、滅多にしません。二十年に一度、人間の血をいただければ、それで生きていけますから。……それに、『食べ物』は残さずいただきます」

三嶽は思わず、両手をあげた。

「できれば食べないでいただきたい」
「だからっ、滅多にいただきませんってば!」

ヘンルィクがあわてて大きな声で否定したあと、すぐに声のトーンを落とした。

「……半年まえ、二十年に一度の食事をしたばかりですし。……ただ、それが問題で……、食事の瞬間を、人間に見られてしまったんです」

ヘンルィクは肩を落として、うなだれた。

「その人間というのが、先ほど言った女性です。彼女は吸血鬼に強いあこがれを持っていたらしく……、以降、自分を吸血鬼にしてくれと、しつこくつきまとわれてしまって。……私もせっかく人間社会に馴染んできたところだったのに、彼女は人間のまえでも平気で『吸血鬼』と口にするので、気が気ではありません」
「ヘンルィクさんは、周囲に自分の正体が吸血鬼だとばれてしまうと困るわけですね」
「はい。私は吸血鬼狩りの人間たちから逃れて、この街に来ました。正体がばれたらまた、居場所がなくなってしまう」

三嶽はふむ、と考えこんだ。

「……いっそ、その人間を吸血鬼にするわけにはいかないんですか?」

ヘンルィクは、泣きそうな顔で震えあがった。

「とんでもない! あんな押しの強い子と同じ種族になるなんて、想像しただけでもおそろしいですよ!」
「ちなみに、人間が吸血鬼になる方法というのは、ほんとうにあるんですか?」
「……はい。ですが、吸血鬼に血を吸われた人間が吸血鬼になるわけではありません。吸血鬼に殺された人間が、同じ吸血鬼となるんです。ただ、死なない程度の生き血では満たされないし、『食事』を複数回にわければ人間に怪しまれます。ですから、食事のときはできるだけひとりの人間を生かしたまま、かつ残さずにいただかないと……」

そのとき、ばーんッ! ……と大きな音を立てて、とびらが開かれた。
入ってきたのは、二十代前後の娘だった。


「吸血鬼さま、そうだったのですね! この沙沙貴(ささき)キサキ、てっきり吸血鬼さまに血を吸われた者が同じ吸血鬼になると思っていました!」

娘……沙沙貴キサキは、ボブの髪にめがねをかけており、修道服のようなものを着ている。
しかし修道女にしては、めがねの奥の瞳がぎらぎらと輝き、質朴(しつぼく)とはほど遠かった。

「沙沙貴さん!? 聞いていたんですか……!?」

ヘンルィクが動揺しながらたずねると、キサキは胸を張って答えた。

「はいっ、ササキはしっかりとこの耳で聞きました!」

そしてキサキは、両手をばっと広げてほほえんだ。

「さあ、吸血鬼さま! ササキを────はやく殺してください!」