A組の教室では、青空が本を読みながら、誠のことを待っていた。
そこへ誠がもどってくると、青空に深々と頭をさげた。
「ほんとうにごめん。鹿波さんはもう帰っていて、代わりに下水流さんから話を聞くことになったんだけれど、時間がかかりそうだ。
越智さんは放課後、部室に来ると思うから、青空は越智さんから話を聞いてくれるかな。
できれば『先輩幽霊』についてもくわしく聞いておいてほしい。適当な時間になったら、帰ってしまってかまわないから」
「うん、わかった」
青空がうなずくと、誠はすぐに教室を出て行った。
青空は読みかけの本を閉じ、席を立った。
そして教室を出たところで、ちょうど同じクラスの佑虎とはち合わせした。
佑虎は手に、花びんを持っている。
そういえばきのうも、花びんを手に持った佑虎のことを見かけた気がする。
「狩谷君。きのうはどうも、ありがとう」
「あ……西森さん」
佑虎はよわよわしく、ほほえんだ。
「もう具合はだいじょうぶ?」
「う、うん! もうへいき。 ……そんなことよりそのお花って、もしかして……」
佑虎は、手に持った花びんの花に視線を落とした。
「……うん、これは、飛鳥ちゃんに。……ぼくたち、幼なじみだったんだ」
佑虎は、ひどく落ちこんでいるようすだった。
「こんなことをしても、飛鳥ちゃんは帰って来ないってわかってるけれど……」
「で、でも、きっと飛鳥ちゃんも、よろこんでくれるよ……!」
佑虎につられてつい飛鳥のことを名前で呼んでしまった青空だったが、
青空はそんなことよりも、佑虎をはげますことでいっぱいいっぱいだった。
「か、狩谷君は、やさしいね……!」
「そんなんじゃないよ……」
佑虎はゆるやかに、首を横にふった。
「これは、自分のためにやっているんだ。
……生きているあいだじゃなきゃ、意味なんてなかったのに。いまさらなにをやっても、おそいのに……」
それから佑虎はぎゅっと目を閉じて、ふるえる声で言った。
「……僕、好きだったんだ。……飛鳥ちゃんのことが」
青空は佑虎の顔を見た。
そのあと、みるみるうちに頬を紅潮(こうちょう)させると、
「……狩谷君っ!」
思わず大きな声でそう言った。
青空はあわてて、すぐに小さな声でささやいた。
「……狩谷君は幽霊って、信じる?」