「西森さん……っ、いいよ、もう……!」
青空に連れられながら佑虎は、とまどいがちに声をかけた。
「ぼくをはげますために、その……うそをついてくれているんだよね? ……飛鳥ちゃんの幽霊がいる、って」
「ううん、信じられないかもしれないけれど、ほんとうなの!」
青空は佑虎の手を引っぱりながら、足早に部室棟へと向かった。
放課後の部室棟は、生徒たちの声でにぎわっていた。
青空たちは階段をのぼって、二階の廊下を歩いていった。
「えっと、この部屋だよ!」
青空はうれしそうに、元ミステリ同好会の部屋を指ししめした。
そして部屋をこんこん、とノックしてから、とびらを開ける。
部屋のなかにはすでに飛鳥がいて、飛鳥はふわふわと青空に近づいてきた。
「おお、西森さん! 今日も一日、お疲れさま」
飛鳥のうしろには、着物姿のマリアがいた。
飛鳥はマリアに手のひらの先を向けると、青空に紹介した。
「こちらは、先輩幽霊のマリアだ。今日はせっかくだから、いっしょに来てもらったんだ」
「お姉ちゃん、こんにちは!」
マリアが青空にあいさつし、青空も頭をさげた。
「はじめまして、マリアちゃん。私は西森青空です。あのね、今日は狩谷君がいっしょなの」
「佑虎が!?」
飛鳥がうれしそうに、部屋のそとへと飛び出した。
そこには、いごこちがわるそうにしている佑虎が立っていた。
「佑虎、よく来たな!」
「ね、ねえ、西森さん……、だれと話しているの?」
佑虎は飛鳥をすり抜けて、部屋のなかをのぞきこんだ。
「あれ? だれもいない……」
飛鳥が佑虎のうしろに立ちながら、頬をかいた。
「そうだった。佑虎には私のすがたが見えないんだった」
青空はあわてて、佑虎のうしろを指さした。
「狩谷君! あのね、いま飛鳥ちゃんが、狩谷君のうしろにいるんだよ!」
「い、いいってば、そういうのは……」
尻ごみをする佑虎に、青空はやきもきしたように両手でこぶしを作った。
「どうしたら信じてもらえるかな……、あ、そうだ!
ねえ、飛鳥ちゃん。狩谷君と飛鳥ちゃんしか知らないようなこと、なにか教えて……!」
「え、ええ……? とつぜんそんなことを言われても……」
そう言いながらも腕を組んで考えこんだ飛鳥は、ぽんと手のひらをたたいた。
「そうだ、小さいころに捨てられていた子犬を橋のしたで育てていたことがあったな。
佑虎としばらくエサを運んでいたんだが、結局近所の人に拾われていってそれまでだった。その犬のことを、私はポチと呼んでいた」
「狩谷君! 飛鳥ちゃんが昔、狩谷君と一緒にポチを育てていたって言ってるよ……!」
青空の言葉に、佑虎はごくりとつばを飲みこんで、きょろきょろと辺りを見回した。
「じゃ、じゃあ、ほんとうに……、飛鳥ちゃんがここにいるの……?」
「もー、わからずやさんだなー」
それまでだまってなりゆきを見守っていたマリアが、やれやれと両肩を下げた。
そしてふわりと佑虎のとなりまで移動すると、その耳もとにふっ、と息を吹きかけた。
「う……うわぁッ!?」
佑虎がぺたん、と尻もちをついた。
青空がおどろいて、佑虎に手を伸ばす。
「か、狩谷君! だいじょうぶ!?」
しかし佑虎は、ぶるぶるとふるえながら頭をおさえた。
「ご、ごめん! 僕、オバケとか苦手で……! ……ほんとうにごめん、西森さん……、……飛鳥ちゃん!」
佑虎はなんとか立ち上がると、
「うわああ!!」
とさけびながら廊下を駆けて行ってしまった。