都子はしばらくだまっていたが、やがて口を開いた。
「お見事でした。おっしゃるとおり、私が黒宮紅葉……、この事件の犯人です」
「都子……」
泣き出しそうな顔で都子を見る鈴音に、都子は苦笑しながら「ごめんね」と言った。
「数年前のあの火事で両親を失ってから、ずっとあの事件のことを調べていました。
そして村崎支配人、啓祐さん、塩原院長の三人が犯人だということをつき止めました。
彼らに復讐してやろうと心に誓ってからは、偽名を使って、村崎支配人のもとにもぐりこみました。
こつこつと働いて……、そしてようやく、この機がめぐってきたんです……」
そして、都子は塩原のことを、きっ、とにらんだ。
塩原はその威圧感に、びくりと肩をこわばらせる。
都子は低い声で、言った。
「……それなのに、あなたのことを殺し損ねるなんて……」
そのとき、
パァン、
と乾いた銃声がバーのなかに響き渡った。
おどろく深神たちのまえで、塩原の胸もとがみるみる赤く染まっていった。
「かはっ……」
塩原は苦しげに胸をおさえると、そのままどさりと床の上に倒れた。
そして、まもなく動かなくなった。
深神たちがふり返ると、そこには拳銃を両手でかまえたままの、佐藤が立っていた。
佐藤は、憔悴(しょうすい)しきっているようすだった。
髪はぼさぼさで、目の下にはくまができている。
佐藤は言った。
「深神先生。村崎支配人と、高松さんを殺した犯人は、この僕です。
都子が復讐する気持ちを止められないなら、僕が代わりに決行しようと決めていたんだ」
「ちがうわ、私がやったのよ! 啓祐さん、私をかばおうとしないで……!」
佐藤は、いまにも泣き出しそうな都子に向かってほほえんだ。
それはとても、おだやかな笑みだった。
そして拳銃を片手に持ちかえると、その銃口を自分のこめかみに当てた。
「都子のことを、こころから愛していた。
七年前、おろかにも犯行に加担してしまったけれど……僕はずっと後悔していた。
都子は僕のことを許してくれると言ったね。でも……、僕だけが罪をつぐなわないわけにはいかないよ」
「佐藤さん、ばかなまねはよすんだ。おとなしく、その拳銃を渡してください」
深神がそう声をかけたが、佐藤はそれに応じるようすもない。
佐藤はひとつぶのなみだを流しながら、笑った。
「都子、愛しているよ」
そしてそのあとすぐに、短い銃声がバーのなかに響いた。