とが目を覚ましたのは、図書館の中だった。
蛍光灯が明るく館内を照らし、本棚におさまった数々の本は、種類別に細かく分類されている。
ここはもちろん、ライナスの街の図書館ではない。
たちが記憶をなくす前に暮らしていた……そしてもちろんこれからも暮らしていく、たちの街の図書館だった。
ぼんやりとした意識の中、がつぶやいた。
「……夢、だったの?」
そのときは、自分が麻ぶくろを手にしていることに気がついた。
開けてみると、中から出てきたのはちいさな宝石が埋め込まれた、花の形をした髪飾りだった。
がはっとして、となりの席のを見た。
の手には、一通の封筒が握られていた。
それはあのとき郵便屋から受け取った封筒によく似ていたが、数十年も経ってしまったあとのように、外側はずいぶんと色あせていた。
封の部分を指先でこすり合わせると、ぱり、とのりが簡単にはがれる。
が封筒の中を覗くと、そこに入っていたのは色あせた2枚の葉っぱだった。
極度に乾燥していた葉っぱは、封筒から出したとたん、ぱらぱらとこなごなになってしまった。
はあわてて、細かくなった葉っぱを整えて、元の形にもどそうとした。
「……ねえ、おにいちゃん。葉っぱに、なにかが書いてあったみたい」
が葉っぱに顔を近づけながら、言った。
「見たことのない文字だけれど……」
は、文字が読めるように、一部分を手でつなぎ合わせてみた。
「……たぶん、あの世界の文字だ。向こうの図書館で本を見たからわかる。……あのときはたしかに読めたはずなのに……」
ふたりはそれから、顔を見合わせた。
「……夢じゃ、なかったんだね」
「うん、……夢じゃなかったね」
そしてふたりは、自分の目の前の机に置かれていた、一冊の本に目をやった。
ぶ厚くおおきな深い緑色の本で、表紙は布でできていたが、タイトルは書かれていなかった。
「おにいちゃん、見て。これ……」
がページをめくると、そこにはある街に住む、郵便屋の話が書かれていた。
「ぼくたちがいままでいた世界の、物語……」
も数ページめくったあと、最後までめくり終える前に、その本をぱたりと閉じた。
「……この先を読む必要はない。だって彼らはいつまでも、しあわせに暮らすに決まっているんだから」
そしては、その本を本棚へともどした。
そのとき、がはた、と図書館の壁にかけてある時計を見て、青ざめた。
「……って、おにいちゃん! もうすぐ閉館時間! ……図書館が閉まっちゃう!」
「げ、夜の7時か……待って、ぼくたちって、図書館になにしにきたんだっけ?」
「勉強をしにきたんだよ! あぁもう、ぜんぜん宿題が終わってないー!」
「ぼくもまだ、レポートが……」
とは荷物をまとめると、あわてて図書館から出ていった。
そのあと、図書館の職員が電気を消して、館内は非常灯の緑色の明かりだけとなった。
そんな薄暗い図書館の中で、が本をもどしたはずの本棚には、
……もうどこにも、あの緑色の表紙の本は見当たらなくなっていたのだった。
おわり
2005年 短編版擱筆
2012/02/26 長編版擱筆
2012/04/18 加筆修正
2013/06/28 加筆修正、レイアウト変更
2015/11/12 加筆修正、レイアウト変更
2018/11/06 加筆修正、レイアウト変更
2026/03/16 スクリプト差し替え
2026/06/05 推敲、一部表現修正