おねがい -- 01


は森をあとにして、街の中を歩いていた。

「おにいちゃん、早く記憶を取りもどして、郵便屋さんたちを元にもどさなくちゃ!」
「ああ。……でも、手がかりらしいものもないし、どうすればいいのか……」

そのとき、ふたりはあの図書館の前を通りがかった。

「……あ、ベルナデットと出会った図書館だ」
「おにいちゃん、昨日は急に、この建物の前で足を止めていたよね。なんだかそれって、運命じゃない?」

は少しのあいだ、考え込んだ。

「……そこがずっと、引っかかっているんだ。あのときはなぜか、この図書館に入らないといけない気がして」
「もしかして、悪夢を見せられている者同士、共鳴したのかな?」
「そうかもしれない。……ぼく、もう一度この図書館に寄っていくよ。またなにか、新しい発見があるかもしれない」
「じゃあ、わたしは先に行ってるね。そろそろもどらないと、郵便屋さんたちが心配しちゃうかも」
「わかった」

そしてと別れると、はふたたび、図書館の中へと入っていった。



は昨日、ここで本を手に取ったときの違和感を思い出していた。

(……そうだ。ここに置いてある本は、ぼくの知っているものと違った。
もっといえば、図書館のイメージだって違う。ぼくの知っている図書館っていうのは、もっと……)

思い出そうとすると、ちり、と頭が痛んだ。

そうだ。
頭が痛むということは、ぼくの考えかたはたぶん、間違っていない。
ぼくやが言葉から想像するものと、実際に実物を目の前にしたときのずれが、きっと記憶を取りもどす手がかりになるはずだ。

そのとき、ふと、書架の奥で不審な動きをしている少女を見つけた。
しきりに周りを気にして、手元ではごそごそとしている。

カチャカチャ、と鎖がこすれる音。
あれは、本と書架をつないでいる鎖だ。

その鎖を外そうとしている、ということは……

「あのー……きみ?」

がそっと後ろから近づいて声をかけると、少女はびくり、と体をこわばらせてを見た。

少女はと同じくらいの年齢だった。
長い黒髪を高い位置でひとつにわい、体の正面で布を重ね合わせて、腰の帯で止めたような衣装を身につけている。
その服は、この街の住民たちのものとは、だいぶ違う。

「きみ、この街の人じゃないね。実はぼくもそうなんだ。
……でも、どんな理由があっても、ものを盗むのはよくないな」

はそっと、本から手を離させると、少女にたずねた。

「怒らないから言ってごらん。どうして、この本を盗もうとしたの?」

少女はしばらくのあいだうつむいていたが、やがてちいさな声でぽつりと言った。

「……あたし、ここにある本、読めません。だから持ち出して、じっくり調べると思いました」

言葉のイントネーションが、どこかおかしかった。どうやら言語も違うらしい。

「……なにを調べようと?」

すると少女は、ぱっと顔を上げた。
その顔はどこかかなしげで、苦しそうだった。

少女は言った。

「……あたし、知りたいです。この街の、『神さま』のこと」